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「ユリに用事があるのか? 今、買い物に行ってるよ。駅ビルの文房具屋だ。すぐ戻ってくると思うけど、なんだ? 事務関係か? それなら俺でも処理出来るぜ?」
そう言って、無駄にボディビルっぽいポージングをする社長。
マッスルポーズを完全スルーした弥生さんは「そか、誠でもいいのか」とポンと手を叩く。
「あのさ、住所変更の書類がほしいんだ。アタシ引っ越ししたんだよ。あとそれから、」
ああ、そっか。
引っ越ししたら会社にも申告必要だよね。
今後の交通費のコトもあるし。
「引っ越し? へーっ! あのアパート安くて広くて良かったのにな。まぁでも駅から遠かったか。なんだよ、もっと良い部屋見つけたのか? それとも、んぷっ! とうとう、んぷぷっ! 結婚でもしましたかぁ? って、んぷーっ! 悪い悪い! そりゃ無理か! 弥生みたいな大酒飲みで気の強い女を嫁にする強者なんざ滅多にいねぇだろからな! ひゃっひゃー!」
ちょ、デリカシー!
社長と弥生さんの仲なんだろうけど、女性にそーゆー言い方はさー!
ユリちゃんがいたら大目玉食らうからねっ!
てか、その前に僕が大目玉をご馳走します! と、意気込んだ時だった。
「ん、そだよ。結婚したんだ」
弥生さんの一言が僕と社長をフリーズさせた。
「「えっ!?」」
久し振りに社長と声が揃ってしまった。
てか弥生さん?
今なんとおっしゃいました?
「だから住所変更と、アタシは氏名の変更? 苗字変わったからさ、その書類もちょーだい。あと書き方教えろ」
サラっと言ってるけど、弥生さんの頬はバラ色だ。
え……? え……? えーーーーーーーーーっ!!
「「誰と!? いつ!?」」
僕と社長の息はピッタリだった。
てか、え? え? え?
テンパり方までまるで同じ、口をパクパクさせて、あばばばばな状態だ。
いや待て、誰とって、この人の好きな男は、この世にもあの世にも一人しかいない、あの人だけだ。
え、や、デモデモダッテ、マジョリカさんは?
まさかジャッキーさん、マジョリカさんとお別れに?
いや、それはそれで考えられない。
あんな美女と別れる男がどこにいる、いるワケないだろ。
え、じゃ、どーゆーコトなのー!?
僕と社長でそれぞれウーアー唸っていると、更なる燃料が投下された。
ガチャ、
「おつかれさまでーす」
わぁお!
ジャッキーさん(本体)があらわれた!
って、あれ?
今日って出社日でしたっけ?
シフト表にはお休みだってあったはず。
「おっふ! ジャッキー! いい所に来た! 聞いてくれ! 弥生が結婚したって言うんだよ! ヤベェよ! すぐに相手の男に知らせてやらねぇと! 見た目に騙されるな! 弥生を嫁にしたら酒代がかかるってよっ!」
え?
酒代かかるって、気になるのはそこ?
ジャッキーさんは、そんな社長に「ははは……」となんだか薄く笑ってる。
弥生さんは「誠は相変わらずバカだな」となんだか楽しそうだ。
てか、あれ?
なに? なんか二人近くない?
タイトなTシャツにジーンズ姿、筋骨隆々な上半身に、弥生さんは寄りかかるように立っている。
それに……んー?
ちょっと後ろを覗いてみれば、ジャッキーさんのゴツイ手は弥生さんの背中に添えられていた。
「誠、落ち着け、心配するな。ダイジョブ、相手の男はめちゃくちゃイイ男で、アタシの酒好きも承知の上だ。な?」
そう言って目線を上げる弥生さん。
目線の先、それに対してジャッキーさんは、
「知ってはいるけど、健康が心配だ。これからはそんなに沢山は飲ませないよ」
と弥生さんを優しく見つめた……見つめた……見つめてる……まだ見つめてる……てか、長っ……ちょ、いつまでー?
見つめられてる弥生さんはめっちゃ顔が赤い、めっちゃ照れてる、てか、オィ! ずーっと見つめ合ってるんですけどー!
ここだけ温度が高いんですがー!
二人のやり取りを見ていた僕と社長は数秒黙り、考え込んで、そしてとうとう社長が斬り込んだ。
「ジャッキー、その、なんだ。まさかと思うが、もしかして。弥生の結婚相手っていうのは、」
自分から聞いたクセに「まさかな、違えよな」と独り言ちるも、
「はい。自分です。結婚しても弥生は仕事を続けますので、今後ともよろしくお願いします。あ、もちろん自分もヨロです」
とまぁ、すこぶる幸せ顔で答えた直後、ジャッキーさんは弥生さんの肩を抱き寄せた。
「「マジかーーーーーーーーーーッ!!」」
ジャッキーさんと弥生さんのご結婚。
あまりの衝撃に僕と社長はハモるだけじゃなく、デスボイスばりの激しいシャウトをキメてしまったのだ。
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