第十六章 霊媒師 弥生の気持ち

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◆ 机に広げた住所変更等の書類二人分。 社長がさっそく説明を始めるも、途端、眉間にシワを寄せる弥生さん。 「なんか説明聞くのメンドクサイな」 いや、ちょっと、自分から聞いといてナニ言ってんの。 なんて、心の中で突っ込んでいると、隣に座るジャッキーさんは、 「自分がぜんぶ聞いておくから大丈夫だ。書類も代わりに書いてやる」 と甘々だ。 それを聞いた社長は「オイ、そりゃ、ちょっと甘やかしすぎじゃねぇか?」と呆れているけど、ユリちゃんに甘々な社長も人のコト言えないっしょ。 ジャッキーさんが社長と書類の話をしている間、この一カ月で何があったら結婚に至るのか、僕は刑事ドラマのデカばりに弥生さんを問い詰めた。 「ちょっと! ぜんぶ話して! 隠し事はノンノンだからねっ!」 「あはは、ごめんて。内緒にしてた訳じゃないんだ、だから怒らないで。エイミーちゃんには、落ち着いてゴハン食べに行く時に話そうと思ってたの。でも、これじゃあ気になっちゃうよな。少しだけ話すよ。この一カ月の間にあったコトを____」 …… ………… ……………… 弥生さんは簡単にここまでの経緯を教えてくれた。 驚いた……僕はてっきり、ジャッキーさんとマジョリカさんが元の鞘に収まって、弥生さんは身を引いたものとばかり思っていたのに。 「ごめん、びっくりさせたよな。夫一人に妻二人だもん。しかも妻はそれぞれ生者と死者だ。複雑すぎて、現世じゃ、あまり人には言えないねって三人で話してたんだ。ま、でもいいんだ。黄泉の国じゃあ、そういうの珍しくもなんともないらしいからさ。マジョリカが黄泉で何か言われちゃうんじゃヤダけど、そうじゃないなら、アタシら的に問題無しだ。バラカスも喜んでくれたし。エイミーちゃんは……やっぱり引いたか?」 「正直に言ってくれ」と、ちょっぴり不安顔の弥生さん。 僕は驚きはしたけれど、誰に迷惑をかけるでなし、三人が幸せならそれで良いと思うんだ。 「エイミーちゃんならそう言ってくれると思った。えへへ、ありがと」 そう言って笑う弥生さんは、すごく綺麗で幸せそうで。 これから先、この人が涙を流す時は、きっと嬉しいとか、幸せとか、そういうのなんだろうなぁと思うと、僕まで幸せな気持ちになってしまう。 「本当はね、ジャッキーとは一緒に住むだけにして入籍はしないつもりだったんだ。なんか、マジョリカに悪くてさ。でもね、マジョリカがそれじゃダメだって言ったの。この先、家族が増えるかもしれないでしょ、その時の為にもちゃんと籍を入れた方がいいって。もうさ、あの子には頭が上がらないよ」 へへっと笑って、後ろを向いて目を擦る。 きっと半べそ状態だ、僕はそれに気付いてないふりをして、弥生さんが振り返るのを待っていた。 「アタシら三人、みんな仕事をしてるけど、休みが合う時はマジョリカを口寄せするつもりなんだ。せっかく家族になれたんだもん。アタシとジャッキーが死んで黄泉に逝くまで待ってられない。みんなでゴハン食べたり、お喋りしたりしたいんだ。アタシ、実家じゃそんなコト出来なかったしさ。その時はエイミーちゃんも来てよ。マジョリカ、エイミーちゃんのコト好きみたいで、また会いたいって言ってた」 「わぁ、いいの? 嬉しいなぁ、僕もマジョリカさんと会いたい! それにね、みんなでゴハン食べたいなぁって思ってたんだ! ジャッキーさんと弥生さんとマジョリカさんと、あとヤヨちゃんも!」 そう、あのチビッ子を忘れちゃいけない。 ヤヨちゃんと約束したんだ、またシチューを作ってあげるって。 「うん! みんなで会おう! ……あ、そうだ! いきなり思い出しちゃった! アタシ、エイミーちゃんに聞きたいコトがあったんだ! あのね、マジョリカがヘンなコト言ってたの。『ウチと大倉とは十年の付き合いだ』って。いやいや、何言ってんの、そんな前から知らないし。先月会ったのが初めてじゃんかって言ったら『大倉が気付いてないだけだ』って。どういうコト? って聞いても『恥ずかしいから教えない。知りたかったら岡村に聞けばわかるよ』って。ねぇ、なんの話? エイミーちゃん、知ってるなら教えてよ」 あー、はいはいはい。 アレだ。 弥生さんが”無茶ばかり言う霊媒師”って、黄泉の国で有名人になっちゃってる件。 この十年、弥生さんの無茶振りをどうにかしてきたのはマジョリカさんだ。 弥生さんは気付いてないけど、ずっと二人は繋がっていたんだよ。 「それ知ってる。マジョリカさんから聞いたんだ。あのね、」 僕は話しながらワクワクしていた。 聞き終えたらきっと、弥生さんは泣いてしまうだろうな。 驚いて、嬉しくて、感謝して、幸せな涙を流すんだ。 十年の友情、八年の夫婦愛、そして七年の恋。 星の予言、運命のつなぎ目。 それぞれの想いは、ここにきて繋がった。 これから先三人は、同じ千年の時を刻むんだ。 良い時も、悪い時も、迷う時も、進む時も、すべてを分かち合いながら。 すべてを愛しく感じながら。 霊媒師 弥生の気持ち____了
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