第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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今日は土曜でお休みだ。 僕はスマホをテレビに接続し、某巨大動画サイトを立ち上げた。 独り暮らしのワンルーム。 そんなに大きなテレビじゃないけど、スマホに比べりゃぜんぜん見やすい。 「えっと……検索ワードは、【大和】【料理】【筋肉】あたりで出るかな?」 検索ワード入力後、実行キーをタップする……と、いっぱい出て来た! 検索エンジンが拾ってきた数々のサムネイル。 ズラッと並ぶ候補の中から、とりあえずトップのサムネを選んで再生ボタンをポチっとした。 『大和の! マッスルクッキーンッ!!(ダァッシャッ!!)』 わぁ! 大和さんだーーー! なんか知ってる人が映ってるのって感動っ! 『逞しい筋肉に必要なモノ! それはタンパク質だっ! 良質なタンパク質は良質な筋肉を造るっ! そして良質な筋肉は人生をも豊かにするっ! おいしく楽しくお腹を満たして筋肉を育もう! 大和のマッスルクッキン! さぁ! 始めようかっ!(ダァッシャッ!!)』 清水大和さん、社長のお父さんだ。 元プロレスラーの格闘家。 数年前に現役は引退されて、今は若手の指導と地方の講演、そして動画サイトで筋肉を育てる料理チャンネルを開設している。 動画サイトの件はユリちゃんから教えてもらった。 会社の昼休み、最近どんな料理を作る?  なんてレシピの話をしていた時に、 「うーん、昨日はね、お義父さんと一緒に鶏肉のミンチとお豆腐でハンバーグを作ったんだぁ。タンパク質豊富で筋肉に良いんだって。美味しかったし上手く出来たから、今度の動画に上げるって言ってた」 「動画に上げる? なにそれ、そこ、くわしく」 とまあ、こんなきっかけ。 開設してから三年になるというお料理チャンネルは、登録者数も多く評判がいいらしい。 毎日のお夕飯に悩む主婦層から、筋肉修行に励む野郎共まで、色んな人達から支持されているのだ。 画面の中の大和さんは、巨大な岩山そのもので、首から肩、肩から腕にかけての筋肉は、はち切れんばかりにパツパツだ。 ブロンズ像さながらの身体を惜しむ事無く披露するため、大和さんはプロレスラーが試合の時に身に付ける黒いショートタイツに(海パンじゃないよ)、荒々しい文字で【筋肉】と書かれた白いエプロンを着用している。 ショートタイツにエプロン姿……てかこれって、ほぼほぼ【裸エプロン】じゃない? 色っぽさとは真逆だけど、この【裸エプロン】に、剃り上げられたスキンヘッド、使い込まれた編み上げブーツというスタイルは、けっこうなファニーさを醸し出す、が、しかし、紹介するレシピは簡単かつ見栄えがよく、タンパク質豊富で栄養満点。 狙ったのか、たまたまなのか、このギャップが人気を集めているのだ。 あーもー、カッコイイ人って得だよねぇ。 裸エプロンスタイルですら男らしいってナニ? もう奇跡だよ、奇跡の人だよ。 『今日のメニューは、鶏肉のミンチと豆腐を使ったハンバーグ!(ダァッシャッ!!)』 あっ! これってユリちゃんと一緒に作ったっていうハンバーグじゃない? 『鶏肉は良質なタンパク質が豊富でヘルシーだ!(ダァッシャッ!!)』 ……ん? ん? あれ? さっきから、大和さんが喋ったあとに入る『ダァッシャッ!!』って声。 どこかで聞いた声だなって気になってたんだけど、分かっちゃったよ……コレ、社長の声だわ。 あははは、あの人はまったくなにやってんだか。
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