第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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友情か愛情か。 それがハッキリしたのは、こないだの弥生さんとジャッキーさんが結婚したと聞いた日の夜だった。 会社で聞いてすぐはさ、良かったねって、幸せになってねって思ったんだ。 いや、今だって幸せになってほしいと思っているけど。 ただ……その日の夜。 寝る前に、ふと考えてしまったんだ。 ああ、そうか、唐揚げも、シチューも、キッシュも、パンも、弥生さんの為に僕が作る必要はないんだなぁって。 きっとそういうのはジャッキーさんが作ってくれる。 僕よりも料理が上手だし、弥生さんもジャッキーさんが作ってくれた方が喜ぶんだろうなぁって。 そう思ったら、なんだか泣けてきちゃったんだよね。 それで、やっと分かったんだ。 僕は弥生さんが好きだったんだなぁって。 一緒にいれば楽しくて、話せば話題は尽きなくて、いつまでだって話していられる。 僕が辛く苦しい時は、優しく癒して引き上げてくれた。 ああ、それと、百体以上の悪霊の群れに、二人だけで突っ込んでいったんだ。 信じられない……僕がだよ? 生まれてこのかた喧嘩なんて一度もしたコトがなかったのに、超平和主義なのに、弥生さんを一人で行かせる訳にはいかないと、自分から喧嘩をしに行ったんだ。 怖かったけど、痛かったけど、弥生さんが途中何度も「エイミーちゃん、カッコイイ!」って、僕を褒めてくれて、それだけでなにも怖くなくなって、もっと頑張ろうって思ってさ。 弥生さんと一緒なら、僕はなんでも出来るんじゃないかって……そう勘違いさせてくれるんだ。 参ったなって思ったよ。 もっと早く気付いていればって……ああ、違うか。 気付いたところで、弥生さんに「好きです」と言ったところで、振られたに決まってる。 だって弥生さんは、今も昔も未来も、ジャッキーさんしか好きじゃないんだもの。 だから、これで良かったんだろうな。 好きだとかそういうコトを言わなければ、これから先も友人として付き合っていける……いける……いけるけどさ。 でもやっぱり、つ、辛い……! 大和さんのお料理チャンネルで、一人盛り上がったというのに、料理繋がりで弥生さんを思い出して落ち込むという……あーもーイヤー。 てか、弥生さんて、こーゆー辛さを(や、僕よりもっと辛かっただろうけど)七年も抱えてきたってコトでしょ? もうなんかスゴイな、よく耐えてきたな、やっぱりあの人痩せ我慢させたら日本一だわ。 だ、大福……早く帰ってきて。 大福をモフモフしたら、大福の可愛い鳴き声を聞いたら、僕は一瞬で元気になれるのに。 もうかれこれ二カ月近くも離れ離れだ。 黄泉の国ってそんなに楽しいところなのかな……? もしかして僕のコトなんて忘れちゃったのかな……? もう帰ってこないのかな……? ポチッ!(ネガティブスィッチオーン!) 「うわぁぁぁん、大福ぅ! 大福に会いたいよー! モフモフして頭頂部にぶっちゅーってしたいー!」 うなぁん、 「そう! こんな可愛い鳴き声なの! 大福ぅ! 帰ってきてー!」 うな? うなぁん! 「……ん? 幻聴?」 ドンッ! ゴッチン! 座る僕の尻のあたりに柔らかな衝撃を感じた。 同時、 スンスンスンスンスン ゴロゴロゴロゴゴロゴロ…… 激しく嗅がれる鼻息と、ハーレーダビットソンを思わせるゴロゴロ音。 ま……まさか! ガバッと振り返る、と、そこには……! 「大福ーーーっ!! それに先代もーーーっ!!」 いつのまに部屋に来たのか。 僕の大好きな一匹と一人が、確かにそこに座っていたのだ。
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