第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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『ごめんねぇ、水渦(みうず)ちゃんの好きな人のコトは言えないの。それより三男の片想いはどうなの? 吹っ切れそうかな? それとも時間がかかるかな? 弥生ちゃん、結婚しちゃったからねぇ。あんなに美人で優しい子は他にいない。好きになっちゃう気持ちはわかるよ、うんうん』 秘儀! 合掌返し! 先代は”ゴメンねえ”と僕に向かって手を合わせる、それは良いんだ。 そんなコトより……! 「えっと……ん? 今、なんとおっしゃいました? 片想いがどーのーとか、弥生さんがどーのーとか、ははは、聞き違いかな? かな? てか三男って誰のコト?」 えっと……長男がジャッキーさんでしょう? 次男が社長でしょう? キーマンさんは僕より年下、まだ会った事のない先輩霊媒師の方もたぶん年下。 てコトは……三男ってやっぱり僕ぅ? 『カワイイ三男は岡村君にきまってるでしょ。ああ、若いっていいねぇ、甘酸っぱいねぇ。大丈夫ですよ、若い頃の失恋は年を取ったら宝物になりますから。とはいえ今は辛いでしょう。幸い、岡村君は死者に干渉出来るんです。私の胸で良ければ貸しますよ? 思いっきり泣けばいいんです』 さぁ! と両手を広げ、キラキラした目で僕を視る先代。 ちょ、優しい、ちょ、泣きそう。 てか先代の洞察力マジパネェ、って……あれ? や、待って。 コレ本当に洞察力か? だって僕が弥生さんを好きになっちゃったのって、先代と大福が黄泉の国に逝った後のお話よ? 不在中の淡い恋、先代が帰ってきたのはつい最近。 なのになんで知ってるの? その疑問をぶつけてみると、 『ああん、それはね。さっき岡村君の家に到着した時、話しかけようと思ったんだけど、なんか一人でブツブツ言いながら悶絶したり、落ち込んだりしてたから話しかけられなかったの。落ち着くまで待ちましょうって、大福ちゃんと待機してたんだけど、その時ね「僕は弥生さんのコトが好きだったんだー」って聞こえちゃってねぇ。勝手に聞くつもりは……少しだけあったかな、』 テヘっと小首を傾げる先代と大福。 そ、そういうコトかい、なるほどですねー。 ぜぇんぶ聞かれてたってコトなのかー! アイター! 恥ずかしー! てか、早目に声かけてよーん! 「先代! コレぜぇったい誰にも言わないでくださいよ? 特に社長! あの人にバレたら大変なコトになる……大騒ぎになって、お祭り騒ぎになってしまう……あぅぅ……ガクガクブルブル……! むしろ弥生さん本人にバレた方が、よっぽど傷は浅い!」 『大丈夫、安心してください。清水君だけには絶対に言いません。岡村君の言う通り、間違いなくお祭り騒ぎになるでしょう。なんなら駅前で号外配られちゃうかも』 ひぃぃぃぃ!! やりそう! あのツルッパゲ、号外作って配りそう! 「先代ぃぃぃ! 約束! 絶対に約束してください! あのツルツルだけにはぁぁ……あのピカピカだけにはぁぁ……知られたくないぃ!」 想像だけでトラウマになりそうだ。 僕も”黒の電塊”を使わなくちゃいけなくなるかもしれない(もちろん使用上の注意を守り正しく使います)。 『岡村君、今は辛いだろうけど、でもね、恋って素晴らしいですよ。たとえそれが失恋に終わっても、誰かを好きになるというのはステキなコトです。それに……私達霊媒師にとって、失恋を含むココロの痛みというものは、霊力(ちから)に大きな影響を及ぼします。辛い想いをした分だけ、霊力(ちから)は大きくなるのですから、』 「……そうなんですか?」 『そうよ、まだ聞いた事はなかったかな? それならちょうどいい。今夜は岡村君のオウチにお泊りです。夜は長い、心の痛みと霊力(ちから)について教えてあげましょう』 先代はそう言って、優しい顔で笑ってくれた。 ココロの痛みと霊力(ちから)、それはどう影響を与え合うのだろう?
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