第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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◆ ヘルシーでタンパク質豊富なハンバーグを食べ終えて、僕は先代と一緒に飲むためのお茶の用意をする。 ちなみに先代にお出ししたハンバーグ、これは「召し上がれ」のお声がけで味わってはもらえるけれど、死者なのでハンバーグ自体を食べられる訳ではない。 なので、まるまるお皿に残っているハンバーグはラップをかけて冷蔵庫にしまった(明日の僕のゴハンにしよう)。 さて、長年使っている急須に、お茶の葉を入れた。 今日のは爽やか、メロンの紅茶だ。 茶葉に混ざって乾燥させたメロンの果肉が入っているんだけど、これがすごく美味しいの! お湯を通すと濃厚なメロンの香りが立ち上がり、一口飲めば幸せのため息が出てしまう。 グラム売りでちょっぴり高級。 良いコトがあった時にいただく特別なお茶。 ふふふ……今夜は初めて先代が泊っていってくれるんだもの。 メロン紅茶を飲むにはぴったりの日だよ。 「ささ、どうぞ」 先代と僕にはメロン紅茶を、大福には猫用ミルクをコップに入れてテーブルに置く(大福はお水もミルクもコップでないと飲んでくれない)。 『あらま、これはまた……良い香りですねぇ。メロンかな? 若い子はお茶一つでもオシャレですねぇ』 『んー』なんて目を閉じて、メロン紅茶を堪能する先代。 僕も一口飲んで「うま……」と言葉短く、ホッと幸せの溜息をついた。 『さてと、今夜のお話は心の傷と霊力(ちから)でしたね。私ね、今回黄泉の国に逝ってきたでしょう? 黄泉でね、久しぶりに瀬山さんに会ってきたんです。ユリちゃんのお爺さんがお世話になったお礼がてら、たくさんの事を教えてもらってきました。ふふふ……この年になってもまだまだ学び足りないからねぇ』 うぅ……苦い思い出だ。 社長とユリちゃん、両家が揃って結婚のご挨拶のあの日。 ユリちゃんのお爺さんは、黄泉の国で瀬山さんから教えてもらった印を結び、霊力(ちから)を使って僕の身体を乗っ取ったんだ。 僕の身体と僕の顔で、お爺さんはやりたい放題だった。 乱暴な言葉を使い、みんなの前でお尻をポリポリ掻いたのよね。 『瀬山さんが先生で私が生徒、懐かしかったなぁ。私も瀬山さんも生きていた頃は、(霊媒一族の)瀬山の元で霊媒師をしていたんだ。あの頃まだ私は若くて未熟で、霊力(ちから)はあっても、それを生かす技術がなかった。ぜんぶ瀬山さんが教えてくれの。霊力(ちから)の使い方、印の結び方、悪霊の祓い方、善霊の送り方……本当にたくさんをね』 目を細めて天井を眺める先代は、若かりし頃に思いを馳せているのだろう。 その顔は、優しくて穏やかだ。 「瀬山さんって島根の霊媒一族の息子さんだったんですよね? 前に、社長のオウチで先代に聞いた話だと、一人息子なのに跡は継がなかったって。跡目にならずに、ただの霊媒師として働いていたんですか?」
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