第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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「それって……辛くなかったんですかね? いや、もちろん愛する人を失って辛かっただろうけど……瀬山さんは、今まで跡取りとして扱われてきたんでしょう? それが分家の方が跡を継ぎ、瀬山さんはただの一霊媒師(いちれいばいし)になった。まわりの人達もどう接していいか分からなかったんじゃないですか?」 想像にたやすい、いたたまれなさだ。 まわりも本人も気を遣うだろうに。 『そうですねぇ、まるで腫れ物に触るような扱いでしたよ。それまで、瀬山の屋敷の中には、瀬山さん専用の自室がありました。広い部屋でねぇ。だけど、そこを追い出され、屋敷に寝泊まりする他の霊媒師達との共同部屋に行かされたんです。……正直、他の霊媒師達は嫌がりました。元々大人しい人でほとんど話さないし、どう接していいかわからない、一緒の部屋では息が詰まると……どんなに部屋割りを変えてもすぐに苦情がでました』 「そんな……跡取りでなくなったって、瀬山さんは実の息子で屋敷は実家なのに……わざわざ自室を追い出して、他の霊媒師達と同じ扱いにする必要ないじゃないですか……なんの為にそんな事を、」 本当にどうして? だ。 跡取りでなくなったのだから”特別扱いはしない”とかでもなさそうだし。 愛を持って厳しく接するのとは違う気がする。 『まぁ……父上の嫌がらせでしょうなぁ。父上は相当お怒りだった。彼は霊媒師一族を束ねる長として絶大なる権力を持っていました。一族の中にいればお殿様でいられたんです。それが……瀬山さんが心中を図った事ですべて狂ってしまった。毒の後遺症で子供を望めなくなった瀬山さんを、慰めるでも気遣うでもなく『おまえのせいで私はお終いだ』と口汚く罵ってね。自分の息子が跡を継げないとなれば、もうお殿様でいられなくなる。それが許せなく、耐えられなかったのでしょう』 「ひどい……そこまで追い詰めたのはお父さんだし、実の息子よりも自分の権力の方が大事だって言うのか……おかしいよ」 『まったくもってその通り。父上が、瀬山さんを”駒”ではなく”息子”として扱っていれば、あんな事は出来なかったはずです。権力とは恐ろしいものですよ』 「瀬山さん、他の霊媒師達とうまくやっていけなかったんですよね? 同室になる霊媒師からクレームばかり出てたなんて針のむしろだ。辛かっただろうな……瀬山さん、その後はどうされたんですか? もとの自室には戻れなかったんですか?」 『戻れなかったですねぇ……苦情がでるたび何度も部屋割りを変えて、瀬山さんは、少ない荷物を袋に詰めてトボトボと部屋を移動してました』 うわ……聞いてて僕が泣きそうだ。 どんなに惨めだっただろう。 『岡村君……鼻の頭が真っ赤だよ。瀬山さんの為に悲しんでくれてるのかい? ありがとう。私もね……見てて耐えられなかった。瀬山さんが何をしたんだって思ったよ。だからね、ある日申し出たの。瀬山さんと私を同じ部屋にしてくださいって』
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