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「せ、先代……! やっぱり先代は昔から先代です……! 僕が言うのはぜんぜん違うだろうけどありがとうございます!」
もうなんか、僕まで救われた気持ちになった。
だって辛いよ。
今まで、ずっと瀬山の跡取りだと一目置かれてきたのに、いきなり一般兵扱いで、跡取りでなくなった事、心中の事、そんなのが噂になっててさ。
あからさまに嫌がられ煙たがられ、瀬山さんを嫌う人達と寝起きしなくちゃならないなんて……僕が瀬山さんの立場なら耐えられない。
かといって逃げだしたくても行き場がない。
誰か手を差し伸べる……までしなくてもいい。
せめて、普通に接してくれる人がいてくれればどんなに楽になるだろう。
それを先代が買って出てくれたんだ。
『んー、そんなふうに言われると、ちょっと後ろめたいですねぇ。私はね、あんな扱いを受ける瀬山さんを見ていられない、という気持ちもありましたけど、下心もあったんです。……ふふふ、だってお得でしょう? 瀬山さんは一族の中でも頭一つどころか、二つも三つも飛びぬけた霊力の持ち主で、加えて、武術や交渉術にも長けていた。そんな素晴らしい人と同室って……もう質問し放題じゃないっ! 実際、私、毎日教えを乞うたんです。あの方、本当に優しくてねぇ、嫌な顔一つせず沢山の事を教えてくれました。今の私があるのは瀬山さんのおかげなの』
「そうか、さっき言ってた、”瀬山さんが先生で先代が生徒”って、この時期のコトなんだ」
『そう、本当に勉強になったよ。それに楽しかった。沢山話す人じゃなかったけど、同じ部屋で沈黙してたって不思議と居心地の悪さを感じませんでした。……ただね、時折ものすごく悲しい顔をするんです。きっと……愛する人を思い出していたのでしょうねぇ。瀬山さんにとって大きな傷だ。それこそ魂を抉るくらいのね』
魂を抉るくらいの傷か……どんなに痛いだろうな。
僕は、瀬山さんに比べたら幸せなのかもしれない。
好きになった弥生さんは生きていて、愛するジャッキーさんと幸せに暮らしてるんだもの。
あの人が泣くのは絶対にイヤだ、元気に笑っていてほしい。
『元々ね、瀬山さんの霊力は大きかった。百年に一度、誕生するかどうかの”希少の子”として生まれたのは伊達じゃない。だけど……心中を図るまでは今でこそ語られる”伝説級の霊媒師”ではなかったの。そこまでの強い霊力になったのは、愛する女性を失ってからなんだよ』
「それって……さっき先代が言ってた”心の傷”に関係するって事ですよね? 傷を負うとどうして霊力が強くなるんですか?」
『それはね、』
言いかけて黙り込む先代。
どうしたんだろう……?
難しい顔をしている……もしかしてヘビーな内容なのかな?
だから言葉を選びまくっているとか……?
『岡村君……突然こんな事を言うのはなんだけど……さっきお夕飯の支度の時、お料理してるトコを後ろから視ていました。……ハンバーグのほかに、スィートポテトも作っていませんでした?』
スィートポテト?
あーーーーっ!
作った!
先代、おいもが好きだから、デザートに食べようと思って作ったんだったー!
すっかり忘れてた!
すぐに、お出ししなくちゃ!
「ご、ごめんなさい! 先代のお話が面白くて忘れてました! 冷蔵庫に冷やしてあるからすぐ持ってきます!」
僕が慌てて立ち上がると、ふにゃりと笑い『あ、そーお? なんか催促しちゃったみたいでゴメンネェ』と嬉しそう。
なんだよ、楽しみにしてくれてたんか。
もっと早く言ってくれたら良かったのに。
んもー、甘いもの好きの幽霊ってカワイクなーい?
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