第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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「え? 霊力(ちから)って誰にでもあるものなの……? でも、幽霊が視えない人なんていっぱいいるじゃないですか。むしろ視える人の方が少ないって言うか……」 釈然としないものがあった。 誰でも持っているなら、なんで視えない人がいるの? 『そうですねぇ。身体の中に霊力(ちから)をしまっておく箱がある、と言えばわかりやすいかな? 箱にしまわれた霊力(ちから)は、生涯しまいっぱなしで、魂の自動修復以外は使わずに終わる人と、箱から取り出して大なり小なり霊力(ちから)を使う人と二通りいます。岡村君が言った、”幽霊の視えない人”というのは、箱に霊力(ちから)をしまったままの人を指すんですよ』 「箱……ですか」 僕の頭の中には、なんの根拠もないけれど、綺麗な彫刻が施してある小さな宝石箱のようなモノが浮かんでいた。 だって霊力(ちから)を入れておく箱よ? きっと鍵付きでキラキラしてて、高級っぽいんだと思うのよね。 『そう、箱です。とは言っても現世でよく見るような箱が、本当に体の中にある訳ではありません。あくまでイメージです。話の便宜上、”箱”と言いますが、我々を含めた”霊能者”は、なんらかのきっかけで箱の蓋が開き、解放された霊力(ちから)を操れる者を指します』 「そうなんだ……ってコトは、誰もが霊能者になれる可能性を持っているの?」 『ご名答。ですが、あくまで可能性です。霊力(ちから)をしまう箱というのは、そう簡単には開かないものなのです。大抵は、自身の中にそんな霊力(ちから)がある事も知らずに一生を終えます』 だよねぇ。 ウチの会社の人達以外で、僕のまわりに霊力(ちから)を持った人なんていないもの。 「それなら……箱の蓋は、どんなきっかけで開くんでしょうか? ウチの会社の人達も、なんらかきっかけがあったって事でしょう? って……あれ? そう考えると、僕ってきっかけあったのかな? ずっと霊力(ちから)なんて無いと思ってたのに、先代に指摘されて初めて『あ、そーだったの?』って知ったんだ」 そう、初めて先代に会ったのは僕が求職中だった頃。 先代は、地元F市のハローワークで職員さんのフリをして、僕を霊媒師にスカウトしたんだ。 ああ、懐かしいなぁ。 あの時、先代が僕を視つけてくれなかったら、霊媒師にもならなかったし、みんなとも出会えなかったし、弥生さんに恋をする事もなかったんだ。 『岡村くんの場合は、ちょっと人とは事情が違うんです。なので、それは後でゆっくり説明するとして……まずは通常の”蓋の開き方”ですが、それはね、本当に必要に迫られた時だけ、蓋は開いてくれるんですよ』 「必要に迫られた時? ……と、言いますと?」 『そう、たとえば……ああ、そうだ。岡村君、こないだマジョリカちゃんを口寄せした時、弥生ちゃんとツーマンセルだったでしょう? その時に聞いたかな? 弥生ちゃんが初めて自分の中の霊力(ちから)に気付いたのは、沢山の悪霊達に襲われて、とことん追い詰められた時だったって』 「あっ! 聞きました! 確かにそう言ってました!」 『うんうん、そうだよねぇ。……それから鍵君。彼が失せ物探しの霊力(ちから)に目覚めたのは、彼がまだ小学生だった頃。クラスメイトに物を隠され、雨の中、林の中をたった一人で探し回り、だけど見つける事が出来なくて……相当に追い詰まってボロボロに泣いてしまった時に霊力(ちから)が発動された、』 「……そうだ、キーマンさんは僕に、そう話をしてくれたんだ」 『それから清水君。あの子は悩みなんて何にもなさそうだけど、彼はわずか三才の頃に母親を事故で亡くしています。まだまだ母親が必要な幼少期。彼は突然いなくなった母親を必死に探したんでしょうなぁ』 「そうか……母親恋しさで必死になって探して……それがきっかけで霊力(ちから)が開花した……」 確か社長のお母さまは、社長が三才の頃から二十歳(ハタチ)になるまでの十七年間、現世に留まり息子の傍にいたんだ。 その間、二人は生者と死者ではあるけれど、普通の親子と同じように毎日を過ごしていたと聞いた。
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