第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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『弥生ちゃんと鍵君は、霊力(ちから)に目覚めるまで、随分長い間辛い思いをしてきました。そのストレスは相当で、魂にはたくさんの傷がついたものと考えられます』 すっかり冷めてしまった先代のメロン紅茶を僕のコップに移し替え、新しく熱い紅茶に入れ替えた。 そして小声で「どうぞ召し上がれ」と声を掛けると、先代はニッコリ笑い『ありがとう』と答えてくれる。 『たくさんの傷は、それまで箱の中の霊力(ちから)によって自動修復がかけられていたのだと思います。二人の魂を取り出して視る事は出来ませんが、きっとパテ埋めだらけのツギハギだらけなのではないでしょうか。それでもパテ埋めだけでなんとかなっていれば、箱の蓋は開く事はなかったのでしょうけど、二人共、辛い事が多すぎて精神面で限界を迎えてしまいました。……鍵君の蓋が開いた時、おそらく当時は彼の傍にいたであろう、お婆さまが手助けをしたのだと思われます。聞けば、霊力(ちから)が目覚める寸前、お婆さまの手作りクッキーの甘い匂いが漂ってきたと言っていましたから』 そうだ、その日をきっかけにキーマンさんは、失せ物探しをさせたら誰にも負けない霊力(ちから)を得たんだ。 お婆さん、助けてくれたのか……きっと、泣いているキーマンさんが心配でたまらなかったんだろうな。 「なるほど……それなら弥生さんの蓋が開いた時は、ヤヨちゃんが手助けしたんでしょうかね?」 『まず間違いないでしょう。ヤヨちゃんの素となる、沢山の”元神候補達”は、弥生ちゃんの箱の中に入り込み、自ら霊力(ちから)に吸収されました。その中でヤヨちゃんに生まれ変わり、内側から蓋を開けたのです』 「あ……! じゃあ、じゃあ、社長の蓋を開けたのは、亡くなったお母さん?」 『これも間違いないでしょうなぁ。可愛い盛りの三才児が泣きながら自分を探してるのを視たら……そりゃあ、お母さまも蓋を開けるでしょうよ』 話ながら先代は、時折喉仏を上下させ、時折口をモグモグさせている。 メロン紅茶を飲みながら、スィートポテトを楽しんでくれてるみたいだ。 「三人共協力者がいるのか……ねぇ、先代。箱の蓋が開く時というのは、近しい幽霊(ひと)が手助けしてくれる事が多いんですか?」 『いや、そういう場合もある、というだけです。水渦(みうず)ちゃんの場合、幼少の頃から霊力(ちから)があったようですが、おそらく特殊な環境下で、常に魂に傷がつき、常に自動修復がかけられて、修復作業が止まる事が無かったがゆえ、蓋も自然に開いてしまったのではないかと。あくまでも私の想像ですがね』 ____行き場のない孤児は施設行きと相場がきまっています、 ____例に漏れず私も施設生活が始まりました、 ____そこは地獄でしたよ、 ____食事もろくに与えられず、 ____孤児同士の苛めや職員からの虐待は当たり前、 ____施設ってみんなああなんでしょうか? ____他の施設に行った事がないのでわかりませんが…… 水渦(みうず)さんの言葉だ。 彼女は赤ん坊の頃、冷夏の雨の日に公園に捨てられているのを保護されたんだ。 きっと想像以上の辛い事や理不尽な事に晒されてきたんだろうな。 『蓋が開くきっかけは人それぞれですが、いずれも許容範囲を超えた傷がつき続けると、魂から警鐘が鳴り響きます。修復も間に合わず、消滅してしまう可能性が出てくると、緊急事態と言わざるを得ない。そういう時に蓋が開くのです。その人を脅かす何か(・・・)に対抗する為に、霊力(ちから)が解放されるのです』
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