第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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『次に鍵君。彼に必要だったチカラ、それは失せ物を探し出す能力です。……ま、このお話は、さっきも触れたし、前に岡村君は本人から聞いてますからね。詳しい説明は省きますが、彼の探知能力は瀬山の手練れが束になってかかっても敵いません』 ふんっ、と胸を張り誇らしげな先代は、まるで孫自慢のおじいちゃんだ。 キーマンさんの最大の特徴とも言える独特な話し方。 そのせいで明るい変わったお兄さんという印象だけど、なかなかどうして、意外と繊細な人なのだ。 先代は、そんなキーマンさんをちょっぴり心配に思い、そしてとても可愛がっている。 『それから弥生ちゃん。あの子の話も、マジョリカちゃんの口寄せの時に本人から聞いたでしょう? 弥生ちゃんに必要だったチカラ。それは悪霊達と全力で戦える霊力(ちから)です。少女の頃、性質(たち)の悪い霊に憑りつかれましたからねぇ。一度目をつけられたら最後、逃れる術はない。もう戦うしかなかったの。だから霊力(ちから)は、あらゆる武器を構築する能力を与え、そして身体能力を徹底的に強化させました』 「身体能力の強化?」 『そうです。岡村君、弥生ちゃんと一緒に百体以上の悪霊と戦ったんですよね? その中で気が付きましたか? 弥生ちゃん、どれだけ動いてもスタミナが切れなかったでしょう。多少息があがってもすぐに平常に戻る。そして、怪我の治りが異常に早い』 そういえば、この間の悪霊のみなさんとの戦いで、僕の息はカヒューカヒュー言うくらい乱れまくったのに、弥生さんは多少の息切れはあったものの、ものの数分で戻ってた。 怪我の治りも同様で、回復力が尋常ではなかったんだ。 「確かにそうでした。現場で弥生さんを見てた時、この人ホントに38か? って逆年齢詐称を疑いましたもん。弥生さんはチカラを喧嘩に全振りしたんだな……どーりで強い訳だよ」 ま、更に言えば弥生さんは元ヤンだからね。 デフォルトでレベル99だったんだろうけど。 『ふふふ、弥生ちゃんは強くて弱くて優しい子。あの子もたくさん苦労しましたからねぇ。あとは幸せしかないですよ』 うぅ、なんて目をウルウルさせて涙目になる先代は、今度は嫁にいった孫を想うおじいちゃんと化している。 まあ、無理もない。 先代と弥生さんの付き合いはもう十年だ。 その間、弥生さんとジャッキーさんのコトも視続けてきたんだ。 ____ああん、若いっていいねぇ! ____恋っていいねぇ! 先代は人の恋路に無邪気な顔で口を出す。 そんな先代は、弥生さんとジャッキーさんが想い合ってるのも知っていた。 なのに、ずっと気付いてないふりをしてたのは、マジョリカさんの存在を知っていたからなのだろう(ジャッキーさんの入社の時に過去を霊視して知っていた)。 先代も……この恋は叶わないものだと思っていたのかもしれない。 だからこそ、今が嬉しくて仕方がないんだ。 『いやぁ、ここ最近、ウチの会社はめでたいコトばかりです。清水君とユリちゃん、弥生ちゃんとジャッキーさん。二組も結婚しちゃうんだもの。私ね、現世に残って良かった、本当に成仏しなくて良かったと思います。あとは……水渦(みうず)ちゃんが幸せになってくれると良いんだけどねぇ。あの子も根は良い子なんです。ただねぇ、ちょっとアレなのよ』 アレってなんだ? と思いつつ、次は水渦(みうず)さんのお話かなと待っていたら…… 『うん……水渦(みうず)ちゃんのお話は、今回やめておきましょう。前に少しは聞いたでしょう? それで察してちょうだい。あの子の話は本人以外がしたら駄目なのよ。ごめんね』 と白い眉毛がハの字に下がった。 「や、いいんです。あやまらないでください。プライベートなお話だもの。これは話しちゃいけないコトって先代が判断するなら無理に聞くつもりはありません。だいじょぶですよ。ささ、メロン紅茶をもう一杯いかがですか? 今、温かいのに淹れ直しますからね」 メロン紅茶は冷めてもおいしい。 僕のコップに先代のを移し入れ、代わり、温かな紅茶をお出しした。 『ありがとう。このお茶は何杯飲んでも飽きません。良い匂いがしてとてもおいしいです。スイートポテトも最高っ!(モーグモーグゴックン) では……そろそろ、岡村君の話をしましょうかね。キミの持つ強い霊力(ちから)。その霊力(ちから)は元々あったのか、そうでないならどこから得たのか。夜はまだ始まったばかりです。今夜はゆっくりお話しましょう』 時刻は21時を少し過ぎた頃。 夜はこれからだ。 いよいよ僕の話が始まる。
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