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「一番最近の爆発が三十年前……それに母がたまたま当たったのか。本気でただの偶然だ。だからウチみたいな平凡なサラリーマン家庭に”希少の子”が生まれた訳ね……
そう考えると逆に、霊媒一族として長い事やってきた瀬山のオウチに、彰司さんという”希少の子”が生まれたのってスゴイですよねぇ。瀬山さんのお母さんは、重なる偶然を引き寄せたんだ。持ってるなぁ」
霊媒一族の跡取なら、狂おしいほど望まれるであろう、”希少の子”だ。
瀬山さんのお父さんのやり方はともかく、過分な期待をかけるのも、幼少の頃から厳しい修行をさせるのも、……少しはわかるよ。
『そうねぇ。聞くところによると、瀬山さんの母上は相当な重圧をかけられてたみたいだからねぇ。結婚前の母上は手練れの霊媒師でした。霊力が強いというだけで父上と結婚をさせられたんです。そして早々に子を生む事を期待された。しかも霊力の強い男の子を産めと言われ続けたんですよ』
先代は眉をしかめて重い溜息をついた。
僕もつられて溜息を漏らす、そこでもまた本人の気持ちは無視なのか。
「酷いですね……そんなの、お母さまの意思でどうこう出来るものじゃないでしょう」
『岡村君の言う通り。霊力者の子供に必ずしも霊力があるとは限らないというのに。だけどね、母上は必死だったと思いますよ。だって瀬山のオウチで霊力の無い子を産んでしまったら、母上の立場も悪くなりますが、なにより子供がかわいそうだ。跡取りとして必要な霊力が無いと判断されたら間違いなく里子に出されてしまう。そして霊力のある子が生まれるまでそれを繰り返すんです、』
僕は絶句した。
そんなのあまりにも酷い。
お母さんを、子供を、なんだと思っているんだ。
霊力がなければ必要ないと?
そんなに瀬山は偉いのか?
そんなに霊力が大事なのか?
「先代……僕は、瀬山さんと同じ霊力を持っているのかもしれませんが、瀬山一族でなく、平凡なサラリーマン家庭に生まれて良かったと思いますよ。瀬山さんには悪いけど、瀬山さんのお父さんはどうかしてる。家よりも権力よりも、妻や子供の方が大事に決まっているのに……お母さんも瀬山さんも辛かっただろうな……」
持ってる霊力はほぼ同じ。
違うのは生まれた場所だ。
僕の実家はお金持ちではない。
家も大きなお屋敷でなはなく、小さな建売住宅だ。
父は中間管理職、母は近所でパート勤務、飼ってる猫も雑種の茶トラ。
平凡すぎる中流家庭だ。
それでも実家の居心地は良かったよ。
テストで70点も取れば褒めてもらえた、勉強も運動もそこそこでいいと言われた。
ただ、人に意地悪だけはするなと、困ってる人がいたら迷わず助けなさいと、厳しく言われたのはそれだけだ。
なのにさ、霊媒一族に生まれたばかりに瀬山さんは……
『……ありがとう。時を越えて、こうして瀬山さんの為に怒ってくれる人がいるなんて、私も嬉しいです。あの人ね、本当に優しい人なの。誰よりも霊力が強く、誰よりも優しくて弱い人。……ふふふ、”弱い人”なんて言うと誤解があるかもしれませんねぇ。違うんです。人はね、弱くていいの。弱くなければ他人の痛みがわからない。わからなければ優しく出来ない。……人の痛みがわからないというのは怖い事ですよ。岡村君は、ずっと岡村君のままでいてくださいね、』
僕に”僕のままでいてくれ”と言ってくれる先代は、優しくて、それでいて少し淋しそうな顔をしていた。
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