第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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「一番最近の爆発が三十年前……それに母がたまたま当たったのか。本気でただの偶然だ。だからウチみたいな平凡なサラリーマン家庭に”希少の子”が生まれた訳ね…… そう考えると逆に、霊媒一族として長い事やってきた瀬山のオウチに、彰司さんという”希少の子”が生まれたのってスゴイですよねぇ。瀬山さんのお母さんは、重なる偶然を引き寄せたんだ。持ってるなぁ」 霊媒一族の跡取なら、狂おしいほど望まれるであろう、”希少の子”だ。 瀬山さんのお父さんのやり方はともかく、過分な期待をかけるのも、幼少の頃から厳しい修行をさせるのも、……少しはわかるよ。 『そうねぇ。聞くところによると、瀬山さんの母上は相当な重圧をかけられてたみたいだからねぇ。結婚前の母上は手練れの霊媒師でした。霊力(ちから)が強いというだけで父上と結婚をさせられたんです。そして早々に子を生む事を期待された。しかも霊力(ちから)の強い男の子を産めと言われ続けたんですよ』 先代は眉をしかめて重い溜息をついた。 僕もつられて溜息を漏らす、そこでもまた本人の気持ちは無視なのか。 「酷いですね……そんなの、お母さまの意思でどうこう出来るものじゃないでしょう」 『岡村君の言う通り。霊力者の子供に必ずしも霊力(ちから)があるとは限らないというのに。だけどね、母上は必死だったと思いますよ。だって瀬山のオウチで霊力(ちから)の無い子を産んでしまったら、母上の立場も悪くなりますが、なにより子供がかわいそうだ。跡取りとして必要な霊力(ちから)が無いと判断されたら間違いなく里子に出されてしまう。そして霊力(ちから)のある子が生まれるまでそれを繰り返すんです、』 僕は絶句した。 そんなのあまりにも酷い。 お母さんを、子供を、なんだと思っているんだ。 霊力(ちから)がなければ必要ないと? そんなに瀬山は偉いのか? そんなに霊力(ちから)が大事なのか? 「先代……僕は、瀬山さんと同じ霊力(ちから)を持っているのかもしれませんが、瀬山一族でなく、平凡なサラリーマン家庭に生まれて良かったと思いますよ。瀬山さんには悪いけど、瀬山さんのお父さんはどうかしてる。家よりも権力よりも、妻や子供の方が大事に決まっているのに……お母さんも瀬山さんも辛かっただろうな……」 持ってる霊力(ちから)はほぼ同じ。 違うのは生まれた場所だ。 僕の実家はお金持ちではない。 家も大きなお屋敷でなはなく、小さな建売住宅だ。 父は中間管理職、母は近所でパート勤務、飼ってる猫も雑種の茶トラ。 平凡すぎる中流家庭だ。 それでも実家の居心地は良かったよ。 テストで70点も取れば褒めてもらえた、勉強も運動もそこそこでいいと言われた。 ただ、人に意地悪だけはするなと、困ってる人がいたら迷わず助けなさいと、厳しく言われたのはそれだけだ。 なのにさ、霊媒一族に生まれたばかりに瀬山さんは…… 『……ありがとう。時を越えて、こうして瀬山さんの為に怒ってくれる人がいるなんて、私も嬉しいです。あの人ね、本当に優しい人なの。誰よりも霊力(ちから)が強く、誰よりも優しくて弱い人。……ふふふ、”弱い人”なんて言うと誤解があるかもしれませんねぇ。違うんです。人はね、弱くていいの。弱くなければ他人の痛みがわからない。わからなければ優しく出来ない。……人の痛みがわからないというのは怖い事ですよ。岡村君は、ずっと岡村君のままでいてくださいね、』 僕に”僕のままでいてくれ”と言ってくれる先代は、優しくて、それでいて少し淋しそうな顔をしていた。
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