第十七章 霊媒師 持丸平蔵

28/37
前へ
/2550ページ
次へ
ふぅ、と息を吐き、一呼吸おいた先代はこう続けた。 『祓い屋を生業としていた瀬山一族ですからねぇ、そこに”希少の子”がいるというのは、相当な強みになります。父上を庇うつもりはまったくありませんが、お家柄、特別な霊力(ちから)を持つ瀬山さんに、必要以上の期待と重圧をかけるのは仕方がないという思いもありました。ただ、そこに少しでいい、父上に思いやりがあれば、母上も瀬山さんも、それから父上本人だってみんな幸せになれたんです。それが残念でなりません』 眉根を寄せる先代は、実際、若い頃、瀬山で霊媒師をしていた。 瀬山は沢山の霊媒師を抱える大所帯で、厳しい修行に耐えられず逃げ出す霊媒師もいたと聞いたし、先代ですら泣きが入る程だと言ってたんだよなぁ。 瀬山ってギスギスした雰囲気だったのかもしれない。 「はぁ……瀬山さん、いっそのコト、霊力(ちから)なんてなければ良かったのに」 大きな一族の事情もしきたりも知らない僕だからこそ、こんな勝手な事が言える。 だけどそう思わずにはいられないよ。 『確かにねぇ。もし、瀬山さんが”希少の子”でなくて、霊力(ちから)もたいしてなかったら、間違いなく里子に出されてたでしょう。もしかしたら、その方が平凡な幸せを掴んだかもしれません。でもね、彼は黄泉の国で言ってました。生きていた頃は辛かったけど、あの家に”希少の子”として生まれたからこそ、最愛の女性に出逢えたんだって。今は、その女性と黄泉で仲良く暮らしてます。辛い事はみんな終わったんだって笑ってましたよ』 そっか……瀬山さん、今は幸せなんだな。 それなら良かった。 僕と先代、しばし、瀬山さんへ思いを馳せて黙り込む……も、先代は突然話題を変えた。 『そうそう、話はかわるけど岡村君。この間弥生ちゃんと悪霊百体と戦ったんだよね。弥生ちゃんが、すっごーーく驚いてたよ。埼玉の現場では、いかにも新人って感じだったのに全然違ったって。ちょっと会わない間に成長してたって嬉しそうにしてたの。印を結んで無限に霊矢を撃ちまくり、もう百体、別の悪霊達を鎖で拘束したと大興奮で話してくれました。私も驚きました。いやぁ、よく頑張りましたねぇ』 やだ、弥生さん、先代にそんな事話したの? 照れちゃうー、でも褒めてもらって嬉しい! 「えへへ……弥生さんがたくさん助けてくれたから戦えたんです。あの時、悪霊は百体超えでいましたけど、そのおかげで霊矢は目を瞑って撃っても誰かしら当たりました。悪霊の拘束も、神奈川の現場でジャッキーさんに教えてもらったものだし、」
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加