第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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少々話が脱線し、なんで社長はいつもふざけているのかとか、水渦(みうず)さんは前よりだいぶ丸くなったとか、キーマンさんの”キーマントーク”は難易度が高いとか、ユリちゃんは社長にベタ惚れだとか、ベタ惚れと言えば弥生さんとジャッキーさんだとか、二人して大笑いしつつお喋りを楽しんだ。 「あーおかしい! 僕ね、先代と大福が帰ってきてくれてすごく嬉しいです。”希少の子”は心の傷を霊力(ちから)で包んで……とか、正直よくわかりません。それより、こうしていっぱい笑った方が癒されると思うんです」 笑いすぎで目尻の涙を指で拭きつつ、そんな事を言ってみる。 すると先代も、 『岡村君、良いコト言いますねぇ。その通りですよ、笑うって大事。笑えば大抵のコトは流せます。でもね……人って弱いでしょ? 嫌な事があって辛すぎると、すぐ傍に楽しいコトがあっても見えなくなっちゃうの。辛いコト、悲しいコトばかりに目がいって、どんどん自分を追い込んでしまうんです。そういう時はね、力を抜いて思いっきり泣くと良い。恰好悪いとか、これくらいで泣くなんて甘えてるとか思わずにわんわん泣くの。泣けばスッキリします。それでもまだ辛いなら、まわりに助けてもらえばいい。迷惑になるとか考えずにね。いいんですよ、そんなのはお互いさまですから』 そう言ってニコニコと笑う先代は『ちょっと説教じみてましたかねぇ』と照れている。 「そっかぁ、辛い時はガマンしなくていいんだ。泣いてもいいし頼ってもいいんですね。そう言われるとなんだか気持ちが楽になります。えへへ、この先僕がどうしても辛くなったら先代に泣きつくので、その時はよろしくです。……生きてた頃の瀬山さん、先代と同じ部屋になって良かったですよね。先代と一緒なら辛い時でも癒されそうだもの」 『……いやぁ、それがそうでもないのよ。若い頃の私は今と全然違う。辛い事や悲しい事があれば、それにどっぷりはまってましたからねぇ。すぐ傍の楽しい事も目に入らず、腐って落ち込んで、ヒドイ時は瀬山さんに八つ当たりまでして……いやはやお恥ずかしい限りです』 「先代が? 人に八つ当たり? ウソ……信じられない」 先代はいつだって優しい、いつだって僕の気持ちを汲んでくれる。 未熟な僕をもどかしいと思う事もあるだろうに、決して苛々せず、怒る事もなく、忍耐強く見守ってくれるんだ。 なのに…… 『本当ですよ。若い頃はもっと尖っていたし、迷ってばかりでした。だから瀬山さんの慰めにはなれてなかったんじゃないかな。……瀬山さん、私が八つ当たりをしても、愚痴を言っても、弱音を吐いても決して怒らなかった。それどころか「平ちゃんの心は自由だ。僕の前なら好きなだけ感情を出せばいいよ」って言うんです。”心は自由だ”、この言葉、彼が言うと重みがありますよね……私が今の私になったのは、瀬山さんと何年も同室だったからです。一緒に寝起きして、修行を積んで。そう、霊技だけじゃない。彼は本当に色んな事を教えてくれました』
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