第十七章 霊媒師 持丸平蔵

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若い頃は尖ってた……と言われても、今の先代しか知らない僕には、どうにもこうにも想像がつかない。 一体どのくらい尖っていたのだろう? 社長くらい? や、アレは尖ってるとはまた違うな、もっとメンドクサイ生き物だ。 じゃあ、ガチギレした時のジャッキーさん? いやぁ、ナイナイナイナイ! あれは怖い、あんなんだったら、どうしようって思っちゃう。 かといって水渦(みうず)さんの尖りっぷりは別格だし、水渦(みうず)さんと喧嘩中の弥生さんも同等だし。 「どうやっても想像がつかない……」 僕がそう独り言ちると『想像しなくてよろしい』と先代ストップがかかってしまった。 『本当に……若い頃も、こうして年を取って死んだ後も、瀬山さんにはお世話になりっぱなしですよ。……瀬山さんってね、亡くなってから十年経ちますが、いまだ我々祓い屋達の間で”伝説の霊媒師”と呼ばれています。それこそ分家の、瀬山さんの代わりに跡を継いだ方よりも有名なんですよ。優れた技術はもちろんですが、なんてって霊力(ちから)が強い。私は勝手に瀬山さんの一番弟子だと思ってますから、彼が称えられるたびに誇らしく思ったものです』 それ……すごくわかる。 僕だって、先代や社長が他の誰かに褒められたら、きっと嬉しく思ってしまうもの。 『でも今は少し複雑かな。黄泉の国で瀬山さんに、”希少の子”がどうして生まれるか、”希少の子”の辛い気持ちは霊力(ちから)が真珠のように包み込むとか、その真珠は霊力(ちから)を増強させるとか、そういうのを教えてもらって……気付いてしまったんです。彼が”伝説の霊媒師”と呼ばれるようになったのは、心中事件以降の事で、きっと消えない悲しみは沢山の真珠を生み出したのだろうなと。そしてどんなに真珠が作られても、その真珠をどんなに消費しても、瀬山さんの悲しみは癒えなかったのだろうなってね』 先代は悲しそうな顔でそう言うと、俯いて、ぷーぷー寝息を立てる猫又のお腹を撫ぜた。 「それは……そうかもしれないですね。だって瀬山さんは、それだけ辛い思いをされたんだもの」 『うん……私ね、瀬山さんと一緒にいた頃、彼が”希少の子”だから、いつだって真面目に修行を積んでいるから、だからどんどん霊力(ちから)が強くなるんだろうなぁって思ってたの。だけどそれだけじゃなかった。心の傷が生み出す真珠の増強効果もあったんだなぁって思ったら……うぅっ、切なくてねぇ。私、十年も一緒に寝起きしてたのに、気付いてあげられなかった。あまつさえ八つ当たりまでして、瀬山さんに甘えてた、』 そこで言葉を切った先代の目はウルウルで半ベソ状態だ。 ああ、きっと、先代にとっての瀬山さんって、僕にとっての先代みたいな存在なんだろうな。 優しくて、頼りになって、いろんな事を教えてくれて、そして大好きな人なんだ。
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