第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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とまぁ、みんなのデスクはこんな調子だというのに、オレンジさんのデスクはなんにもない。 ファイルもなければ書きかけの書類もないし、ペン立てすらない。 あるのは支給されたノートパソコンだけだ。 きれいさっぱりすぎて、今の今まで誰も使っていないと思っていたくらいだもん。 その何もないデスクでオレンジさんは、小さな肩掛けカバンからスマホを取り出すと、なにやらポチポチし始めた。 な、なにしてるんだろう? 始業時間はすぎてるのに、社内メールのチェックとか、報告書とか交通費精算とか、そういうのをしてる気配はない。 てか、たぶんゲームしてる。 音はちっさいけどさ、独特なピコピコ音と、バトルシーンを盛り上げる音楽が聞こえるもの。 えぇ……? 基本、この会社は現場でしっかりさえすれば、あとはそうウルサイコトは言われない……けどさ、それにしたって自由すぎないかぁ? もう、意味がわからないよ……ハッ!  もしかして、これがジェネレーションギャップというヤツなんだろうか? などと、僕がモンモンとしている背後から、社長のバカデカイ声がオレンジさんに向けられた(てか、同じ事務所内なんだから大声じゃなくても、)。 「おい、(らん)! 最近新しく社員が二人入ったんだ! 紹介するからコッチ来いよ!」 オレンジさんって、ランさんっていうんだ……名前だよな、苗字じゃなさそうだけど。 呼ばれたランさんは、スマホの画面から顔を上げた。 ゲームを中断されたであろう顔は……やっぱり無表情。 怒った様子もなければイラついた様子もない、もっと言えばバツの悪い顔もしていない。 ランさんはただ無言のまま立ち上がり、こちらへとやってきた。 「………………」 わお……こんなんでも一応我が社のトップ相手に無言ですよ。 「(らん)、紹介するよ」 なにも喋らないランさんを気にする様子もない社長は、僕とユリちゃんを隣に立たせ、こう続けた。 「二人共入社したのは二カ月前。こっちが霊媒師で入った岡村英海(おかむら ひでみ)。戸籍上の名前は岡村だが、今は”エイミー”だ。(らん)もエイミーと呼んでやれ。入社のきっかけはジジィのスカウト、えらい惚れこみようでな。エイミーはウチの会社の誰よりも霊力(ちから)を持っている。前に話しただろ? 期待の新人が入ったって。それがエイミーだ」 しゃ、社長。 もういい加減、”エイミー”で紹介すんのやめにしません? あとハードル上げすぎ。 霊力(ちから)は……もしかして少しはあるかもだけど、”期待の”とかそういうワードは、やーめーてー。 「で、この子はユリ。事務担当だ。交通費の精算や各種書類や手続き関係。ユリに聞けばなんでも答えてくれるぞ」 満面の笑みで紹介する社長にユリちゃんは、 「”なんでも”なんて言わないでください! まだわからないコトいっぱいあります!」 と大慌てだ。
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