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アセアセしながら両手をブンブン振るユリちゃん。
それを見た社長はニヤリと笑い、
「そんなコトねぇよ、ユリの仕事は完璧だ。これから繁忙期が始まって、俺が現場に出るようになっても安心してまかせられる」
なんてコトを言いながら、ユリちゃんの頭をワシワシ撫ぜた。
その顔はデレッデレ。
もうね、見てるコッチが照れちゃうよ。
まぁでも、ユリちゃんの仕事が丁寧で正確なのは本当だ。
「ああ、そうそう、」
ユリちゃんの頭から手を離した社長がランさんに向き直る。
「嵐にはまだ言ってなかったけどよ、ユリは俺の嫁なんだ。……んん? なんだよその目は。言っとくが妄想じゃねぇぞ? ユリは俺にベタ惚れだ、俺はもっとベタ惚れだがな。もう一緒に住んでるし、今月下旬に入籍予定だ」
そっかぁ!
前に六月に入籍予定だって言ってた!
わぁ! いよいよ本当の夫婦になるんだなぁ……めでたいっ!
これはなにかお祝いをしなくちゃ。
あ、結婚式とかどうするんだろ?
後で聞いてみよっと。
「……s、」
ん?
今のはランさん?
聞き逃しそうなほどの小さな声は、僕の空耳かなって思うくらい。
でも、
「なんだ? どうした?」
社長がこう聞き返したってコトは空耳じゃなさそうだ。
みんなランさんが話すのを待っていた。
僕も社長もユリちゃんも。
だって何か言いかけて、その声が小さくて、誰も聞き取れなかったんだもん。
注目されるランさんは、ギョッとした顔で僕らを見ると、瞬時に顔を赤くして挙動不審になってしまった。
ソワソワしながら後ろを向いたり横を向いたり俯いたり。
途中コトバになってない「あうあう」的な、ナニかを呟き……最後には頭を抱えて座り込んでしまった。
ど、どうしたの?
急に体調悪くなっちゃったの?
ランさんが心配で、背中をさすりに行こうとした僕を社長が止めた。
「待て、エイミー。ステイだ。
嵐、悪かった。ちょっと今のはキツかったな。そのまましゃがんでろ。無理しなくていい。大丈夫だ、俺がいる。エイミー、ユリ、ちょっと嵐から離れてくれ。んでもって嵐の顔を見るな」
社長の指示に訳がわからないと思いつつ、僕とユリちゃんは座り込むランさんと距離を取る。
社長は「少し待ってろ」と僕らに言い、「大福、ちょっと来てくれ」とプリティ猫又を呼んだ。
「大福、コイツを冷やしてやってくれ」
座り込むランさんは、顔だけじゃなく耳まで真っ赤だった。
どうしたんだろう……?
急な発熱?
だとすれば、僕の大福はすこぶるヒンヤリでうってつけですよ。
『うなぁん』
可愛く答えた大福は、ランさんを覗き込むと、熱のこもった頬に柔らか肉球をペタっとあてた。
「ジュゥゥゥゥゥゥ!」
えっ!
そんなにランさん熱かったの!? と一瞬びっくりしたけど、よくよく聞けばアレ、社長が隣でアテレコしてたわ。
だよねぇ、さすがに、んなワケないわ。
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