第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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ジュウジュウジュウジュウ、社長のアテレコが炸裂する。 その間、僕の可愛い大福餅は、ランさんの頬やら耳やら、ヒンヤリ肉球をペタペタペタペタとあてまくる。 「……とうね、」 あ……ランさんが大福に何か言ってる。 しゃがみこんだまま泣きそうな顔で、さっきまでの脱力系無表情とはまるで違う。 もしかして……何か事情があるのだろうか? どのくらいそうしてたんだろ? ランさんは落ち着きを取り戻していた。 頬も耳も真っ赤だったのが、今は通常。 熱が引いたみたいだ。 「エイミー、ユリ、待たせたな。コッチ来ていいぞ」 ランさんの隣で社長が僕らに手招きしてる。 僕とユリちゃんは顔を見合わせ、戸惑いを隠しつつ二人の傍に行った。 「(わり)いな。驚いただろ? ちゃんと理由(わけ)を話すし、(らん)の紹介もするからよ。(らん)、それでいいな?」 社長がランさんにそう聞くと、コクンと大きく頷いた。 と同時、またも頬が赤くなり始めてる。 大丈夫かなぁ、やっぱり体調悪いんじゃないの? 無理しないで早退するか、更衣室で横になった方が良いと思うの。 心配でランさんの顔を見ると、頬が赤く目が潤んでて、すこぶる不安そうな表情だった。 「エイミー、ユリ、改めて紹介する。コイツの名前は深渡瀬嵐(ふかわたせ らん)。”嵐”と一文字書いて”らん”だ。霊媒師歴一年の22才。ウチの会社で一番の若手だな。前職はゲーム会社のプログラマー。霊的スキルについては後で詳しく話すとして……さっき、(らん)が急におかしくなってびっくりしただろ? 先にそれを説明するわ」 (らん)さん、やっぱり何か事情があったんだ。 でもいいのかな……それを僕らが聞いちゃって。 ……あ、だからさっき社長は「(らん)、それでいいな?」と聞いていたんだ。 (らん)さんが納得してるなら聞いておきたい。 だってこれから僕らは長い付き合いになるんだもの。 もしかしたら、いつか(らん)さんとツーマンセルを組む事だってあるかもしれない。 社長の説明はこうだった。 (らん)はよ、極度の赤面症なんだ。 誰かと面と向かって話すのが苦手で、特に初対面や慣れない相手はダメだ。 緊張からすぐに顔が赤くなる。 赤くなるくれぇどうってコトねぇだろって、俺は思うけどよ、本人はそれをすごく気にしてる。 慣れない相手と話さなくちゃいけないとか、さっきみたいにみんなから注目されたりとか、そういった場面になると耳まで赤くなっちまう。 しかも、その赤面した顔を見られるのが苦痛すぎて、さっきみてえなパニックを起こすんだ。 ああなっちまったら、とにかく一旦距離を置いて顔を冷やして、熱を取るしかねぇ。 顔の赤みが収まれば、気持ちも一緒に落ち着いてくる。 エイミー、朝、(らん)に会った時、不愛想なヤツだって思わなかったか? 無表情だし、喋らねぇし、一人でスマホ弄ってるし。 だが、アレが(らん)の精一杯だ。 見た事のねぇ顔に元気に挨拶して、挨拶を返されて、そこから話が続いちまったら、緊張からパニックを起こす。 もしそうなったら相手に迷惑をかけるだろ? だったら不愛想なヤツと思われていいから、最低限の挨拶と話しかしねえ。 長年、赤面症が元でトラブり続けた(らん)の結論だ。 前の会社もな、それが原因でクビになった。 社内でコミュニケーションとれないヤツはいらないってよ。 ま、俺としてはクビになってくれて良かったよ。 そのおかげでウチの会社に来てくれたんだからな。 つーコトでよ、エイミーもユリも、(らん)に戸惑うコトがあるかもしれねぇが、んなモン、お互いさまだ。 細けぇコトは気にしねぇで仲良くやってこうや。
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