第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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社長の説明を(らん)さんは俯きながら聞いていた。 「(らん)のデスクにモノがねぇのも、いつクビになっても慌てないように、私物をあまり置かないんだ。俺が(らん)をクビになんかするはずねぇのにな」 社長はそう言って(らん)さんの頭をクシャクシャとかき混ぜた。 あーもー、社長は髪がないから分からないだろうけど、せっかくセットしたオレンジヘアが台無しじゃないか。 んもー、なんて呆れてしまった僕の前、(らん)さんは乱れた髪を気にするでもなく、泣きそうな顔で笑っていた。 「(らん)、エイミーとユリに挨拶出来そうか? 無理ならいいぞ? 理由も話したしよ、この二人なら出来なくたって怒りゃしねぇ。どうする?」 こう聞かれた(らん)さんは、しばらく悩んで、それでもコクっと頷くと、僕とユリちゃんの前に来てくれた。 「あ、あの……ボク、し、失礼でしたよね。ごめんなさい、」 震えた声でそう言うと、ガバっと頭を深く下げた。 やっ! そんなにかしこまらなくてもっ! 「だ、だいじょうぶです! 僕ぜんぜん気にしてないです!」 「そうですよ! 私も知らない人は緊張します!」 テンパった僕もユリちゃんも、(らん)さんと同じくらい頭を下げた。 そんな僕らを見た(らん)さんは、少しほっとした顔をする。 「ボ、ボク……その……朝、会社に着いて、し、知らない方が……岡村さんがいるのが見えて、すごく緊張しました。話かけられたらどうしよう、また真っ赤になっちゃう、やだな、恥ずかしいなって。あ……あ……ちょっとだけすみません、」 話せば話すほど顔が赤くなってしまう(らん)さんは、「すみません」と言いながら横を向く。 そこに大福がポテポテとやってきて、熱の頬に肉球をあてた。 「猫ちゃん、ありがとうね。……だから、岡村さんが会社に入るまで待ってようと、隠れて見てたんです。でも……猫ちゃん抱っこして楽しそうで、それで、な、なかなか会社に入らないから、し、仕方なくヘッドホンしてスマホ弄って、話かけられないようにして……早足で抜かしてったんです、」 こちらを見ないまま、朝の出来事を語ってくれる(らん)さん。 や、ごめん、大福と一緒の出勤が嬉しすぎて、外を満喫しながらノロノロ歩いてた僕が悪いの。 緊張させちゃってごめんね。 無言で通り過ぎる事も出来たのに、それでも「ざいまーす」って頑張って挨拶してくれたんだ。 あれだって勇気がいただろうに……ありがとうね。 「それと……ユリさん。ご結婚おめでとうございます。社長はすごくすごく良い人だから、絶対に幸せになると思います」 (らん)さん、頑張ってる。 そらした顔を何秒かこちらに向け、真っ赤になって「おめでとう」を言っている。 言われたユリちゃんは、 「あ、ありがとうございます! も、もうすでに幸せです!」 と(らん)さん以上に真っ赤っかだ。 (らん)さんは再び横を向き、 「あ、あの……ボク、この会社に入れて良かったと思ってます。出来れば長く勤めたい。だ、だから、その……き、気長に見てもらえると嬉しいです。こうやって顔を見る事が出来なかったり、また……パニックになるかもしれません。だけど少しずつ慣れていけば今よりマシになると思うんです、」 (らん)さんは、つっかえながらも僕達にそう言った。 「「もちろん!」」 僕とユリちゃんの声が重なる。
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