第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「この会社に入って一年。今は小野坂さん以外は大丈夫になりました。先代も社長も、ジャッキーさんも弥生さんもみんな優しいから、ゆっくりなら話せます。それとキーちゃんは一番の仲良しになれましたし、」 ん? 突っ込みどころが二つあるぞ。 ますは、 「小野坂さん以外って……水渦(みうず)さんは苦手ってコト?」 「は、はい。ボクがイライラさせちゃうから悪いんだけど、いつも怒られてしまって……ちょっとコワイです」 あー、気持ちはワカル。 (らん)さんからすれば、水渦(みうず)さん(25才)は年上だし、そもそも言い方キツイからねぇ。 それは納得。 じゃあ次に、 「仲良しの”キーちゃん”って……もしかして」 消去法で言えば、もうあの人しかいないけど、念のため聞いてみた。 「はい、鍵さんです。鍵さん、みんなから”キーマン”って呼ばれてるでしょ? ボクは年下だから呼び捨ては……と思って、”キーちゃん”に落ち着きました。すごく気が合うんです。ボクもキーちゃんも、カワイイモノが大好きで、雑貨や服や小物の話で盛り上っちゃう。休みが合えば一緒に買い物も行くんですよ」 やっぱりキーマンさんのコトだったか。 確かに気が合いそうだ。 (らん)さん、すごくオシャレだし、キーマンさんもやっぱりオシャレだもの。 好きなモノが同じ人と一緒に過ごすのは楽しいよね。 「僕もキーマンさん、大好きだよ。優しくて楽しい人だもん。(らん)さんは、キーマンさんと一緒の時は、その……緊張しないの?」 「はい、キーちゃんは緊張しません。優しくてコワクないし。それに、キーちゃんって話し方が独特でしょ? 注意して聞かないと何言ってるかわからなくなるから……そっちに気をとられて緊張するのを忘れるんです」 「なるほど……あの難易度の高さがかえっていい結果を招いたのか」 「はい!」 あ……横顔の(らん)さん、笑ってくれた。 キーマンさんの話になったからかな。 「なんだよ、(らん)。エイミーとも気が合いそうじゃねぇか」 突然乱入してきた社長が満面の笑みで言う。 てか僕もちょっと思った。 (らん)さん、話してみると穏やかだし、なんとなく波長が合う。 この先、仲良くなれるといいなぁ。 「何だったら一緒に行くか?」 社長はユリちゃんから社内用タブレットを受け取りながら僕に問う。 「一緒にってどこへ? 買い物?」 さっきの話の流れで思わず出てしまった。 だってこの流れ、キーマンさんと(らん)さんと僕でショッピングへGOな感じしない? 「買い物なワケねぇだろ。行きたきゃオマエら三人、休みの時に都合合わせろ。ちげえわ、現場だわ。今日、(らん)が出社したのは交通費精算でも何でもねぇ。エイミーとユリに会わせたかったのと、新規の現場に行ってもらう為だ。一旦出社して説明聞いて、今日組む相方と合流する為だよ。……そろそろ来ると思うんだがな。家、(ちけ)えし」 そうだったんだ。 今日は現場に入る予定だったんだな。 相方待ちってツーマンセルってコトだろうけど、会社の近くに住んでるウチの社員といったら……キ、 バァン! 大きな音を立て、事務所のドアが開いた。 そして、 「グッモーニン、エビーバーデ! Made you wait(待たせたな)! ……ホワッツ? アゥイェッ! ワァオ! チェリーボーイ! ローングタイムノンシー(久しぶり)じゃないか!」 だーーーーっ!  だ・か・らっ! その呼び方はヤメテー! 違うからね? さすがにチェリーボーイじゃないからね? てか(らん)さん、僕を見て「ダ、ダイジョブですよ」とか気ぃ遣ってるしー! チガウ! 違うんだ! んもー誤解解いてよねーっ! って……この独特な話し方。 ピタッピタの黒皮のパンツに、ゼブラ模様の開襟シャツ、茶色の髪はウェーブがかって肩で跳ね、その顔は外国の俳優さんのように整い、耳には売る程ピアスが着いてる。 ____ローングタイムノンシー ホント、お久しぶりです。 キーマンさん。
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