第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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「ヘイヘイ! ボス、一時間も遅出させてもらってソーリーだ! どうしても仕上げたいモノがあってな! リリィ! カムヒア! 約束のブツを持ってきた」 長い脚で大股で、「リリィ!」と名を呼び近付くのはユリちゃんの元。 てか「カムヒア!」と言っといて自分から行くんだから、キーマンさんらしい。 ユリちゃんと百合の花をかけて呼ぶのは相変わらずだ。 「レイディをずいぶん待たせてしまった……が、その代わりコンフィデンス(自信作)だ」 言いながら、大きなトートバックから取り出したのは、ピンクと赤のチェックの巾着袋。 口の部分には黄色いリボンがまかれている。 「これは……?」 不思議半分、ワクワク半分のユリちゃんが、目をキラキラさせて受け取ると、 「リリィ、オープンだ」 キーマンさんは中を見るよう促した。 うん、と頷き、黄色のリボンを解いて中を覗いたユリちゃんは……「あーっ!」と弾む声を上げた。 「キーマンさん! これ! これ!」 頬を赤く染め、近くのデスクにぽふんと座る。 そして机上に中のモノを並べだした。 あ……あれって! 机上に並ぶは、ミリタリープリンセス、全五種類コンプリート。 キーマンさんが経営するネットショップ、”キー&ストロング”の人気商品だ。 扱う商品はカワイイ雑貨と、ミリタリープリンセスシリーズ。 ミリタリープリンセスは一体一体手作りの完全受注商品。 萌え系美少女が迷彩柄のドレスでマシンガンをぶっ放す、という設定のお人形なのだが、完成度の高さが評判で、予約をしてから手元に届くまで、半年以上かかるという。 これを手掛けるドール作家、その正体はキーマンさんで、前からミリタリープリンセスのファンだったユリちゃんに、いつかプレゼントをすると約束をしてたのだが…… 「すごいです! どの子も可愛いぃ! ああ、どうしよう! すごく嬉しい!」 普段おっとりでホワンとしたユリちゃんが、子供のように興奮してる。 キーマンさんが製作者と知る前から、お金を貯めていつか買いたいって言ってたくらいだもんね。 ユリちゃんは、全五種類のプリンセスを丁寧に机上に並べているのだが、途中、袋の中を見ながら固まってしまった。 「ユリちゃん、どうしたの?」 声を掛けると、ハッと石化が解除され、僕を見る目がジワジワと赤くなってきた。 ちょ、本当にどうしたのよ! 「キーマンさん、これ……」 胸の前で腕を組み、ニヤリと笑うキーマンさんは「ああ、」とだけ答える。 ユリちゃんは、そっと袋の中に手を入れると、もう一体のお人形を取り出した。 なんでもう一体あるの? 全部で五種類だったよね、新作か……? と思っていたら。 ユリちゃんは取り出したお人形を両手で持って、社長に向かってこう言った。 「マコちゃん、見て」 ……! ”マコちゃん”って、社長のコトか!?
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