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ユリちゃんの”マコちゃん”呼びに僕が動揺しまくっていると、当の”マコちゃん”は顔も頭も真っ赤にしながら「ユ、ユリ、会社でその呼び方は……」と滝汗をかいている。
だが”マコちゃん”は気合で立て直し、愛しいお嫁さんの手にあるお人形を見て一瞬固まるも……すぐにニヤリと笑った。
「キーマン、ありがとよ」
それには答えず、スッと手を上げるキーマンさん。
ユリちゃんは、グズグズと鼻をすすりながら「本当にありがとうございます」と何度も繰り返していた。
僕は回り込み、最後のお人形が見える位置に行くと……ああ、そういう事か。
そこにあったのは、真っ白なウェディングドレスを着たお人形で、髪には色褪せた青いリボン、背中にはピンク色のマシンガン、そしてお人形の顔はデフォルメされているものの、ユリちゃんの特徴をうまくとらえていた。
「改めてお祝いはさせてもらう。だが、その前にミリタリープリンセス、ウェディングバージョンだ。これはリリィだけのドールで二体目は造らない。ボス、リリィ、言わせてもらうcongratulations!」
ちょ!
キーマンさん、めちゃくちゃ粋じゃないですか!
僕は「congratulations!」と言われて照れる二人に、拍手をしながら「おめでとうございます!」と声を掛けた。
すると……僕の後ろから「お、おめでとございます」と小さな声と、拍手の音がした。
嵐さんだ。
僕は振り向いて笑い合いたかったけどグッと我慢した。
それをしたらきっとまた緊張させてしまう。
そう、嵐さんとは、これからゆっくり仲良くなればいい。
最初は顔を見てくれなくても、横顔でお話しできれば充分だ。
いつかそのうち、僕にも慣れてくれたら嬉しいな。
キーマンさんはそんな嵐さんに、白い歯を光らせて手をあげた。
僕の予想では、嵐さんのコトは【ハリケーン】と呼んでいるのではと考えていた。
だって名前が【嵐】だし。
予想が当たっているかワクワクしながら二人の会話を聞いていると。
「キーちゃん、今日はよろしくね」
まずは嵐さん。
あ、ホントだ。
キーマンさんが相手だと真っ直ぐ顔を見て話してる(顔も赤くないよ)。
「ああ、ジェーン。ミートゥーだ」
ん? ん? ん? ん? ジェーン?
「現場の説明はこれからだよ」
嵐さんは””ジェーン”と呼ばれても、違和感もなさそうで、そのまま会話を続けている……予想、外れてしまった、”ハリケーン”じゃなかった。
てか、なんで”ジェーン”なの?
「そうか。まずはボスとキャサリンと俺とミーティングだな。それから、」
ナヌッ?
今度は”キャサリン”って呼ばなかった?
おい、”ジェーン”はどこいった。
「あっ! キーちゃんゴメン、話の途中なのに! ねぇ、そのネイル! またシャツと同じ柄にしたんだね。すごく良いよー!」
ネイル?
大福ばりに首をニュウっと伸ばし、キーマンさんの手元を見ると……ホントだ! 爪がシャツとお揃いのゼブラ模様になってる!
前回会った時は、シャツも爪もパイソン柄だった。
ちゃんと合わせてるんだなぁ、オシャレだなぁ、なんて関心していると、
「アゥイェ! グレートだ、ドミニク。気付いてくれてハッピーだぜ!」
グッと親指を立てるキーマンさん、僕はどうにも我慢が出来ず、二人の間に入ってしまった。
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