第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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◆ 「ドライビングは俺にまかせるんだ」 そう言ったキーマンさんが、社用車の運転席に乗り込んだ。 続けて、後部座席に乗ろうとする(らん)さんに「良かったら助手席どうぞ」と背後から囁くと、ビックゥっと身体を震わせた後「あ、ありがとございます」と横顔でおじぎをしてくれた。 そして……最後。 僕と大福で後部座席に乗り込むと、お見送りに来てくれたユリちゃんが、社用タブレットを手渡してくれる。 「依頼内容は、いつもの【依頼者フォルダ】に入れておきました。気を付けて行って来てくださいね。それとキーマンさん、本当にありがとうございます! ミリタリープリンセス達と私のドール、一生大事にします! もう家宝にしまちゃいすからっ!」 あはは、キーマンさんのお人形、清水家の家宝に加わるんだな。 ユリちゃん、めちゃくちゃ嬉しそうだ。 そりゃそうか。 あのお人形、ユリちゃんにすごく似てたし、ドレスもキラキラキレイだったもんね。 いいなぁ、あの完成度。 僕も今度オーダーしたいなぁ。 ミリタリープリンセスの大福バージョンで作ってもらえないだろうか。 この世のどこにも売っていない、愛しの大福グッズが手に入るなら、僕、多少高くたって頑張っちゃうよ! 「リリィが喜んでくれて俺もハッピーだ。可愛がってやってくれ。   さて、ジェーン、チェリーボーイ、準備はいいか? all right、じゃあ出発だっ!」 キーマンさんはそう言うと、ゆっくりと車を発進させた。 僕は後部座席の窓からユリちゃんに、 「”マコちゃん”にヨロシクですぅ!」 と声を掛けると、顔を真っ赤にしてキャーキャー言って……えへへ、ちょっとイジワルだったかな? ごめんね(どうしても言ってみたかったの)。 キーマンさんの運転はとても丁寧だった。 たとえるなら熟練のタクシードライバーさんバリの運転テクだ。 だってさ、車がほぼほぼ揺れないの。 平らな氷の上を、スゥーっと滑る感じによく似てる。 なんでこんなに運転が上手いのか?  聞けば、昔、K祥寺で雑貨屋さんの店長兼バイヤーをしてた頃、商品の買い付けで、荷台にたくさんの雑貨を積んでいた頃の名残だそうだ。 曰く「仕入れた商品(カワイ子ちゃん達)を乗せてるんだ。セーフティードライブにもならざるを得ない」とのコト、なるほどね。 車の走りは静かだけれど、車内はけっこうにぎやかだった。 それは仲良し二人組、キーマンさんと(らん)さんがお喋りに花を咲かせていたからで…… 「キーちゃん、そのシャツどこで買ったの? ゼブラ模様ってピンキリなのに、それはすごくキレイ! 線が雑じゃないよね」 ん……? ゼブラ模様に雑とか雑じゃないとかあるの? 何が違うの? 「これか? これはネットだ。実物が見れないからア・リトル(少し)不安だったんだが……イエァ! 見ての通りヒットだった! ゼブラの模様がよりゼブラだ。スーパーゼブラってる!」 うむぅ……”スーパーゼブラってる”、というのは……んんー? わ、わからない、みんな一緒じゃないのか……? キーマントークの難易度もさることながら、(らん)さん、キーちゃんコンビのファッショントークも僕にとっては難易度高だ。 だけど……ふふふ。 (らん)さん、キーマンさんとなら、こんなに自然体で話せるんだ。 ルームミラーに映る(らん)さんは、顔も赤くないし、楽しそうに笑ってる。 僕もぜひぜひ混ざりたいけど、ファッションには疎いので、二人のお喋りに参戦出来そうにもない。 だったらその間、今回の依頼内容をもう一度確認しておこうと、僕は社用タブレットの【依頼者フォルダ】をタップしたのだ。
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