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◆
「ドライビングは俺にまかせるんだ」
そう言ったキーマンさんが、社用車の運転席に乗り込んだ。
続けて、後部座席に乗ろうとする嵐さんに「良かったら助手席どうぞ」と背後から囁くと、ビックゥっと身体を震わせた後「あ、ありがとございます」と横顔でおじぎをしてくれた。
そして……最後。
僕と大福で後部座席に乗り込むと、お見送りに来てくれたユリちゃんが、社用タブレットを手渡してくれる。
「依頼内容は、いつもの【依頼者フォルダ】に入れておきました。気を付けて行って来てくださいね。それとキーマンさん、本当にありがとうございます! ミリタリープリンセス達と私のドール、一生大事にします! もう家宝にしまちゃいすからっ!」
あはは、キーマンさんのお人形、清水家の家宝に加わるんだな。
ユリちゃん、めちゃくちゃ嬉しそうだ。
そりゃそうか。
あのお人形、ユリちゃんにすごく似てたし、ドレスもキラキラキレイだったもんね。
いいなぁ、あの完成度。
僕も今度オーダーしたいなぁ。
ミリタリープリンセスの大福バージョンで作ってもらえないだろうか。
この世のどこにも売っていない、愛しの大福グッズが手に入るなら、僕、多少高くたって頑張っちゃうよ!
「リリィが喜んでくれて俺もハッピーだ。可愛がってやってくれ。
さて、ジェーン、チェリーボーイ、準備はいいか? all right、じゃあ出発だっ!」
キーマンさんはそう言うと、ゆっくりと車を発進させた。
僕は後部座席の窓からユリちゃんに、
「”マコちゃん”にヨロシクですぅ!」
と声を掛けると、顔を真っ赤にしてキャーキャー言って……えへへ、ちょっとイジワルだったかな? ごめんね(どうしても言ってみたかったの)。
キーマンさんの運転はとても丁寧だった。
たとえるなら熟練のタクシードライバーさんバリの運転テクだ。
だってさ、車がほぼほぼ揺れないの。
平らな氷の上を、スゥーっと滑る感じによく似てる。
なんでこんなに運転が上手いのか?
聞けば、昔、K祥寺で雑貨屋さんの店長兼バイヤーをしてた頃、商品の買い付けで、荷台にたくさんの雑貨を積んでいた頃の名残だそうだ。
曰く「仕入れた商品を乗せてるんだ。セーフティードライブにもならざるを得ない」とのコト、なるほどね。
車の走りは静かだけれど、車内はけっこうにぎやかだった。
それは仲良し二人組、キーマンさんと嵐さんがお喋りに花を咲かせていたからで……
「キーちゃん、そのシャツどこで買ったの? ゼブラ模様ってピンキリなのに、それはすごくキレイ! 線が雑じゃないよね」
ん……?
ゼブラ模様に雑とか雑じゃないとかあるの?
何が違うの?
「これか? これはネットだ。実物が見れないからア・リトル不安だったんだが……イエァ! 見ての通りヒットだった! ゼブラの模様がよりゼブラだ。スーパーゼブラってる!」
うむぅ……”スーパーゼブラってる”、というのは……んんー?
わ、わからない、みんな一緒じゃないのか……?
キーマントークの難易度もさることながら、嵐さん、キーちゃんコンビのファッショントークも僕にとっては難易度高だ。
だけど……ふふふ。
嵐さん、キーマンさんとなら、こんなに自然体で話せるんだ。
ルームミラーに映る嵐さんは、顔も赤くないし、楽しそうに笑ってる。
僕もぜひぜひ混ざりたいけど、ファッションには疎いので、二人のお喋りに参戦出来そうにもない。
だったらその間、今回の依頼内容をもう一度確認しておこうと、僕は社用タブレットの【依頼者フォルダ】をタップしたのだ。
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