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ルームミラー越しに嵐さんの顔が見える。
見てない振りして、視界のはじっこでそれを見てるのだ。
嵐さんは最初、チューブから出した緑のクリームに怯んでいたものの、指にとり薄く顔に馴染ませた。
あら? あらら? あらー。
塗ってみると緑じゃないよ。
僕はてっきりカエルちゃんになると思っていたのに。
若干、元の顔より白くなったかな? と思うくらいで不自然さはまったくなかった。
「わぁ……キーちゃん、コレすごいね。顔につけると緑じゃなくなる。……だけど、本当にボクの赤いの隠れるかなぁ。茹でたタコさんくらい赤くなるから心配だよ。んー……もっと塗った方がいい?」
嵐さんが不安そうにそう聞くとキーマンさんは、
「ウェイトだキャスリーン。あまりたくさんつけるとリアルグリーンフェイスになる。今くらいでちょうどいい。to try、このままチェリーボーイとフェイス to フェイスでトークしてみたらどうだ」
と、リハビリをすっ飛ばして実戦を勧めたのだ。
「え……それはちょっと……まだ早いと言うか……」
「Don't worry about anything……何も心配するな、ドミニク。俺を信じろ。ビッリィィブだ」
キラッ!
ハンドルを握るキーマンさんの歯が光る。
嵐さんは「うっ」とかなんとか唸った後、しばらく助手席で黙りモジモジしていたが、「キーちゃんはウソつかない」と独り言ち、ソロリソロリと後ろを向いた。
バチンと目が合う(二回目)。
その目は怯えたハムスターのようで、ついでに唇も震えていた。
やだ……! 僕まで緊張してきちゃう……!
な、なにか話さなくっちゃ、えっと……えっと……そうだ!
困った時は猫の話題。
僕は隣でプープー鼻を鳴らして眠る幽霊猫を指さした。
「ら、嵐さん、この猫は二尾の猫又で名前は大福っていうの。今、僕と一緒に住んでいるんだ」
「………………大福……ちゃん」
嵐さん、頑張ってる!
無言じゃない、ちゃんと答えてくれた!
「幽霊猫だけど、弥生さんが先代に頼んでくれて、会社の中に入れるようにしてくれたんだ。だから僕が出社した時はたいてい一緒にいるからヨロシクね」
「………………先代……弥生さん……」
いいぞ!
まだ僕を見てくれてる。
チョイチョイ目を逸らすけど、戻ってくる。
それに……ん、顔、赤くないじゃん。
もしかしてグリーンの下地が効いてるのかな……?
「嵐さん、今、顔熱い? ぜんぜん赤くなってないよ?」
「……! ほ、ほんと? 今、すごく熱いよ。耳までジンジンしてる」
耳? あっ! 本当だ、耳は真っ赤だ。
てことは……今、嵐さんは顔も赤くなってるはずなんだ。
「ちょ! 嵐さん、確かに耳は赤い。でも顔は変わらないよ! すごくない? 本当にグリーンがレッドを抑えてる!」
「ハッハー!」キーマンさんのしてやったりな笑い声。
や、マジでスゴイわ。
事務所ではあんなに真っ赤だったのに!
嵐さんは小さな手鏡で自分の顔を見つめていた。
角度を変え、頬に手をやり、驚愕の表情を浮かべてる。
やがてグズグズと鼻をすすり、つぶらな目から大粒の涙をボロボロと零した。
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