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◆
「大きなオウチだねぇ」
僕の少し離れた横側で、嵐さんがポーッと依頼者宅を見つめていた。
グリーンの下地効果で顔の赤みが目立たなくなったおかげか、それとも弥生さんとジャッキーさんの結婚の話で盛り上がったかおかげか、僕達の距離はだいぶ縮まった感がある。
けど、ガッツリ目を合わせてお喋り出来るかといったら、そうではない。
車の中ではけっこうお話し出来たけど、席が前後に分かれてたからね。
嵐さんが前を向けば、顔は合わせず近い距離での声のやりとりとなる。
車から降りた今は……僕の横にはいるけれど、決してこちらを見ようとしない。
それでも、たまにはずみで目が合えば、恥ずかしそうにするものの、怯えた顔にはならないのだ。
充分だ、今朝に比べたらすごい進歩だもん。
それよりも。
「キーマンさん、僕、胃がキリキリしてきましたよ」
さっきの訪問前連絡。
あれを聞いてしまっては胃も痛くなるだろう。
斎藤様、驚いただろうな……いや、驚くだけならまだいい。
怒ってるかもしれない。
僕や会社の人達は、キーマンさんが普段からこうだって知ってるけど、初対面の、ましてやお金をお支払いいただき、仕事を依頼した霊媒師が、あんな、ぶっ飛んだ話し方なんて……ポカーンののちお怒りになってもおかしくない。
ま、いざとなったら僕の華麗な謝罪でどうにかするしかないよ。
なんて、頭の中はモヤモヤ状態の僕に向かって、キーマンさんはお気楽な声でこう言った。
「ヘーイ、チェリーボーイどうしたんだ? ストマックが痛むなんてウォーリーだぜ。パーキングエリアで食べたソフトクリームでコールドになったんじゃないか?」
違います、ソフトクリームは無罪です。
キーマンさんのお客様応対にハラハラしてるんです、と言いたいんだけどなぁ。
ソフトクリームを冤罪に陥れ、僕を心配そうに覗き込むキーマンさんを見てると……だめだ、言えない。
しかもさ、トートバックから大きなタオルを(ハート柄)取り出して、僕のお腹にグルグルと巻き付けながら、
「ポンポンがコールドならウォームしないとな」
と優しさ全開。
あーもーいーやー。
この人責めるなんて出来ないわー。
言っちゃったもんは仕方ないしー。
斎藤様が怒ってたら僕が謝るよー。
キーマンさんの優しさに腹を括った僕だったが、その腹にはハート柄のカワイイタオルがグルグル巻きだ。
グレーの地味なスーツにこのファンシーな腹巻ってどうなのよ。
お客様対応に適さない恰好じゃない?
適さないと言えば……嵐さんはギリOKだとして、黒の皮パンにゼブラ模様の開襟シャツのキーマンさんは……ま、いっか。
もう今更着替えられない(そもそも着替えが無さそうだ)。
このまま行くしかない。
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