第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

25/122
前へ
/2550ページ
次へ
◆ 「大きなオウチだねぇ」 僕の少し離れた横側で、(らん)さんがポーッと依頼者宅を見つめていた。 グリーンの下地効果で顔の赤みが目立たなくなったおかげか、それとも弥生さんとジャッキーさんの結婚の話で盛り上がったかおかげか、僕達の距離はだいぶ縮まった感がある。 けど、ガッツリ目を合わせてお喋り出来るかといったら、そうではない。 車の中ではけっこうお話し出来たけど、席が前後に分かれてたからね。 (らん)さんが前を向けば、顔は合わせず近い距離での声のやりとりとなる。 車から降りた今は……僕の横にはいるけれど、決してこちらを見ようとしない。 それでも、たまにはずみで目が合えば、恥ずかしそうにするものの、怯えた顔にはならないのだ。 充分だ、今朝に比べたらすごい進歩だもん。 それよりも。 「キーマンさん、僕、胃がキリキリしてきましたよ」 さっきの訪問前連絡。 あれを聞いてしまっては胃も痛くなるだろう。 斎藤様、驚いただろうな……いや、驚くだけならまだいい。 怒ってるかもしれない。 僕や会社の人達は、キーマンさんが普段からこうだって知ってるけど、初対面の、ましてやお金をお支払いいただき、仕事を依頼した霊媒師が、あんな、ぶっ飛んだ話し方なんて……ポカーンののちお怒りになってもおかしくない。 ま、いざとなったら僕の華麗な謝罪でどうにかするしかないよ。 なんて、頭の中はモヤモヤ状態の僕に向かって、キーマンさんはお気楽な声でこう言った。 「ヘーイ、チェリーボーイどうしたんだ? ストマック()が痛むなんてウォーリー(心配)だぜ。パーキングエリアで食べたソフトクリームでコールドになったんじゃないか?」 違います、ソフトクリームは無罪です。 キーマンさんのお客様応対にハラハラしてるんです、と言いたいんだけどなぁ。 ソフトクリームを冤罪に陥れ、僕を心配そうに覗き込むキーマンさんを見てると……だめだ、言えない。 しかもさ、トートバックから大きなタオルを(ハート柄)取り出して、僕のお腹にグルグルと巻き付けながら、 「ポンポンがコールドならウォーム(温め)しないとな」 と優しさ全開。 あーもーいーやー。 この人責めるなんて出来ないわー。 言っちゃったもんは仕方ないしー。 斎藤様が怒ってたら僕が謝るよー。 キーマンさんの優しさに腹を括った僕だったが、その腹にはハート柄のカワイイタオルがグルグル巻きだ。 グレーの地味なスーツにこのファンシーな腹巻ってどうなのよ。 お客様対応に適さない恰好じゃない? 適さないと言えば……(らん)さんはギリOKだとして、黒の皮パンにゼブラ模様の開襟シャツのキーマンさんは……ま、いっか。 もう今更着替えられない(そもそも着替えが無さそうだ)。 このまま行くしかない。
/2550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2367人が本棚に入れています
本棚に追加