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ピンポーン
キーマンさんが立派な門柱に埋め込まれた呼び鈴を鳴らした。
き、緊張するな。
神奈川の現場では、黒十字様のオウチに勝手に入り込んだんだ。
今回、キチンと呼び鈴を鳴らし、依頼者が出てきてくれるのを待っている。
程なくしてカチャリとドアの開く音が、門柱から目測10メートルほど先から聞こえた。
なんたって斎藤様のお宅は大きいのだ。
東京都下の住宅街、そこに立ち並ぶ一般的な戸建てが4~5棟は入りそうな広い敷地。
ゆえに門柱から玄関ドアまでも距離がある。
開いたドアから顔を覗かせたのは……年の頃は30代後半から40代前半くらいの女性。
「…おくりびの……方です、か………………」
あ、僕達三人を見て固まった(無理もないか)。
怪しい者ではありません、と言うべきか。
でもスリーマンセルのリーダーはキーマンさんだ。
僕が出しゃばって先に声をかけるのもなんだし、嵐さんは小声で「キーちゃんにまかせておけばダイジョブだよ」って言うし(ホント?)……うーん……少し待つか。
静観するコト数秒、さっそくリーダーが声を上げた。
「ハロー! さっきテレフォンしたキーマンだ。今日は会えて嬉しいよ。俺達はミセス斎藤からのミッションをパーフェクトにクリアしに来た。soドントウォーリー、すべて任せておくんだ」
グッと親指を立てるキーマンさん。
いつも通りのキーマントークを聞きながら、僕は目立たないよう手首足首を回し始めていた。
もちろんそれはジャンピング土下座の為の準備運動だ。
わかってる。
言ってる内容はなにもおかしくない、”心配しないで”なんて心強いコトバだよ。
けど、日本じゃなかなか理解されにくいご挨拶だと思うの……と、久し振りのジャンピングに気合十分だったのだが。
「…………もしかして、鍵さんは外国の方ですか?」
ドアから半分身体を出す斎藤様がこう言った。
あ、わかります?
キーマンさんの顔は濃いからね。
外国の俳優さんのような整った顔、色素の薄いブラウンヘアにヘーゼルの瞳。
アメリカ人のお父さまと日本人のお母さまを持つハーフさんだけど、見た目は限りなくお父さま寄りだ。
「イエァ、俺はボーン&レイズド、ニューヨークだ」
え? そうだっけ?
前に聞いた時は、生まれも育ちも日本だと言ってたような。
僕が首を傾げていると嵐さんが、「キーちゃんの実家はY県の入浴市だよ」とコッソリ教えてくれた。(★)
Y県って、あの温泉で有名な?
ちょ、それ思いっきり日本だよねっ!
……う、嘘ではないけど、字が違うし!
この流れでその言い方、斎藤様を誤解させちゃうんじゃないか?(むしろさせたいの?)
離れた距離からキーマンさんをジッと見つめていた斎藤様は、「ああ、それで」となにやら納得されたご様子。
そして、
「ニューヨーク……鍵さんはやっぱり外国の方だったんですね。それでそういった話し方を……日本語お上手ですね。ごめんなさい。私、知らなかったから驚いてしまって、」
と恐縮してる。
それに対しキーマンさんは、
「ノープロブレムだ、ミセス斎藤。……入っても?」
とクールに聞いた。
「ええ、もちろん。どうぞお入りください」
斎藤様はもう不振がっていなかった。
緊張気味だが、それでも笑顔で出迎えてくれたのだ。
★→【入浴市】は架空の市町村です。
念のためネットで検索しましたがヒットしませんでした……が、「え? あるよ?」な、情報をお持ちの方がいらしたら教えてください(*´ω`*)
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