第十八章 霊媒師 深渡瀬 嵐(ふかわたせ らん)

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ピンポーン キーマンさんが立派な門柱に埋め込まれた呼び鈴を鳴らした。 き、緊張するな。 神奈川の現場では、黒十字様のオウチに勝手に入り込んだんだ。 今回、キチンと呼び鈴を鳴らし、依頼者が出てきてくれるのを待っている。 程なくしてカチャリとドアの開く音が、門柱から目測10メートルほど先から聞こえた。 なんたって斎藤様のお宅は大きいのだ。 東京都下の住宅街、そこに立ち並ぶ一般的な戸建てが4~5棟は入りそうな広い敷地。 ゆえに門柱から玄関ドアまでも距離がある。 開いたドアから顔を覗かせたのは……年の頃は30代後半から40代前半くらいの女性。 「…おくりびの……方です、か………………」 あ、僕達三人を見て固まった(無理もないか)。 怪しい者ではありません、と言うべきか。 でもスリーマンセルのリーダーはキーマンさんだ。 僕が出しゃばって先に声をかけるのもなんだし、(らん)さんは小声で「キーちゃんにまかせておけばダイジョブだよ」って言うし(ホント?)……うーん……少し待つか。 静観するコト数秒、さっそくリーダーが声を上げた。 「ハロー! さっきテレフォンしたキーマンだ。今日は会えて嬉しいよ。俺達はミセス斎藤からのミッションをパーフェクトにクリアしに来た。so(だから)ドントウォーリー、すべて任せておくんだ」 グッと親指を立てるキーマンさん。 いつも通りの(・・・・・・)キーマントークを聞きながら、僕は目立たないよう手首足首を回し始めていた。 もちろんそれはジャンピング土下座の為の準備運動だ。 わかってる。 言ってる内容はなにもおかしくない、”心配しないで”なんて心強いコトバだよ。 けど、日本じゃなかなか理解されにくいご挨拶だと思うの……と、久し振りのジャンピングに気合十分だったのだが。 「…………もしかして、鍵さんは外国の方ですか?」 ドアから半分身体を出す斎藤様がこう言った。 あ、わかります? キーマンさんの顔は濃いからね。 外国の俳優さんのような整った顔、色素の薄いブラウンヘアにヘーゼルの瞳。 アメリカ人のお父さまと日本人のお母さまを持つハーフさんだけど、見た目は限りなくお父さま寄りだ。 「イエァ、俺はボーン&レイズド(生まれも育ちも)、ニューヨークだ」 え? そうだっけ?  前に聞いた時は、生まれも育ちも日本だと言ってたような。 僕が首を傾げていると(らん)さんが、「キーちゃんの実家はY県の入浴(にゅうよく)市だよ」とコッソリ教えてくれた。(★) Y県って、あの温泉で有名な? ちょ、それ思いっきり日本だよねっ! ……う、嘘ではないけど、字が違うし! この流れでその言い方、斎藤様を誤解させちゃうんじゃないか?(むしろさせたいの?) 離れた距離からキーマンさんをジッと見つめていた斎藤様は、「ああ、それで」となにやら納得されたご様子。 そして、 「ニューヨーク……鍵さんはやっぱり外国の方だったんですね。それでそういった話し方を……日本語お上手ですね。ごめんなさい。私、知らなかったから驚いてしまって、」 と恐縮してる。 それに対しキーマンさんは、 「ノープロブレムだ、ミセス斎藤。……入っても?」 とクールに聞いた。 「ええ、もちろん。どうぞお入りください」 斎藤様はもう不振がっていなかった。 緊張気味だが、それでも笑顔で出迎えてくれたのだ。 ★→【入浴(にゅうよく)市】は架空の市町村です。 念のためネットで検索しましたがヒットしませんでした……が、「え? あるよ?」な、情報をお持ちの方がいらしたら教えてください(*´ω`*)
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