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通されたのは広くて陽当たりの良い、リビング……というよりは応接室といった感じの部屋だった。
フカフカの焦げ茶色の絨毯が敷き詰められた真ん中に、白い革張りの大きなソファ、そのソファとセットなのか同じく白いローテーブル。
斎藤様は、僕達三人にソファに座るよう勧め、「すぐに戻ります」と部屋を出ていった。
大きなソファの奥から、嵐さん、キーマンさん、僕の順で並んでいる。
僕は隣のスリーマンセルのリーダーの横腹を突っついた。
「あの、キーマンさん。さっきの! 斎藤様に”生まれも育ちもニューヨーク”、なんて言っちゃって良かったんですか?」
斎藤様がいないのをいい事に、嘘じゃないけど……ねぇ、なアノ事を突っ込んでみた。
「アーハン? 何か問題でも? ボーン&レイズド、”入浴シティ”と言っただけだ」
シレっと答えて片目を瞑るキーマンさんだが……これは確信犯ですわ。
「キーちゃんは、誰にどう思われても自分を変えないんだよ」
僕の方を見てるけど、目線はタオル腹巻あたりに飛ばす嵐さんがそう言って小さく笑う。
うん、そだね。
まったく変わっていなかった。
いつも通りのキーマン節だ。
てか、今回の斎藤様は、うまいコト日本語と英語が混ざってしまう外国人の方なのね、って誤解してくれたからいいけれど、今まで現場でクレームになった事とかないんだろうか?
それをやんわりと聞いてみると、
「クレーム? ノンだ、チェリーボーイ。確かにファーストコンタクトは俺のトークに驚くカスタマーばっかりさ。だがな、そんなのはトリビアなんだよ。考えてみろ、カスタマーは俺にナニを求めてる? パーフェクトなビジネスマナーじゃない、パーフェクトなミッションクリアだ。俺はこのThree years、それに応えてきたからな」
そう言って不敵な笑みを浮かべるキーマンさんは、失せ物探しに関して絶対の自信を覗かせていた。
なんたって先代のお墨付きなのだ。
今までの現場で、独自なキーマントークを通しても、最終的には実力で黙らせたという事なのだろう。
さ……さすがだ……でも……でもさ。
「キーマンさんがどうして自分を変えないのか……いや、変える必要がないのかわかりました。探せない失せ物は無い、という事なんですね。……じゃあさ、なんで斎藤様には日本語がイマイチな外国人で通してるの? そりゃあ誤解したのは斎藤様だけど、ニューヨークシティじゃなくて入浴市だしぃ」
さっきの明らかに誘導したよね?
あんな言い方、ニューヨークだって思うよね?
斎藤様のエラーを誘ったよね?
「oh no……キャサリン、チェリーボーイにレイディの扱い方を教えてやれ。ヘイ! ちっともわかっちゃいないんだな! At that time、ミセス斎藤は「真相分かっちゃったんですけど」ライクだったじゃないか! ガールのように頬にローズを咲かせてた、それを否定しろと? 「残念だったな、予想は外れだよ」そう言えと? スーパーフェミニストの俺には無理だ。それに……今回、誤解したままの方が話がスムーズにいきそうだったからな(ニヤリ)」
さっきのはスーパーフェミニストゆえだったの?
いや、でも最後に”誤解したままの方が都合が良い”的なコト言っちゃってたよね?
ホントはそこがメインディッシュなんじゃないの?
それを裏付けるように嵐さんが補足説明をしてくれて……
「キーちゃんはね、実力で切り抜けるのと、外国人だと思わせて煙に巻くのと半々くらいなんだ」
ああん、やっぱりそうかとキーマンさんをチラリと見ると「そんなコトはトリビアさ」と歯を光らせたのだ。
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