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◆
ガチャ!
「「ママー?」」
ノックも無しにドアが開いた。
そこから顔を覗かせたのは……あら可愛い。
髪を二つに結わいた制服姿の女の子が一人、二人……って、
わぁ! 双子ちゃんだ! 同じ顔だよ!
斎藤様の娘さんなんだろうなぁ。
だって目鼻立ちがそっくりだ。
「あっ! お客様!」
ソファに座る僕達を見て、一人の女の子が慌てたように顔を引っ込めた。
するともう一人の女の子が「コラ! ちゃんとご挨拶しなくちゃダメだよ!」と逃げる子のおさげを引っ張る。
「いたーい!」
「ごめん! でもご挨拶っ!」
ふふ、微笑ましい。
同じ顔の双子ちゃんでも性格は全然違うんだねぇ。
一人はしっかり、一人は恥ずかしがりなのかな?
「こらーっ! あんた達! 今日はお客様がいらっしゃるって言ったでしょう! おやつはキッチンにあるから、それ持って部屋に行ってなさーい!」
お盆にお茶を乗せた斎藤様が現れた、と同時に双子に大声をあげる。
怒られた女の子達は「「ママ怖ーい!」」とかなんとか。
キャーキャー言いながら、嵐のように去って行った。
「ご、ごめんなさいね! うるさかったでしょう?」
恐縮しながら僕達にお茶を出してくれる斎藤様に、
「ぜんぜんうるさくなんかなかったですよ。可愛らしいお嬢さん達ですねぇ。今おいくつなんですか?」
と聞くと、
「中学一年生です。小学生まではねぇ、ママ、ママって可愛かったんだけど、最近は生意気になりました。口が達者で、しかも双子でしょう? 毎日、本当に大変ですよ」
そう言って笑った。
双子ちゃんがイイ感じに掻きまわしてくれたおかげで、場の空気が明らかに柔らかい。
ちょっと前のギクシャクがウソみたいだ。
子供ってすごいな、大人が難しいと思う事を何の気なしにやっちゃうんだもの。
話やすい雰囲気になった所でキーマンさんが切り出した。
「ミセス斎藤。今回の依頼は失せ物探しと、現在の状況確認。それとそれに見合った対応とあったが、状況確認とは?」
僕達の対面に座る斎藤様は、聞かれた質問に黙り込み、さっきまでの柔らかな空気が一掃される。
落ち着かない様子で下を向いたり、こちらを見たり……どうしたんだろう?
「ミセス?」
キーマンさんが再び声を掛けた。
斎藤様は目の前のお茶を一口飲んで、湯飲みをぎゅっと握っている。
なにか……言いにくい事なんだろうか?
「……おくりびさんにも守秘義務ってありますか……? 依頼内容を誰にも、特に……娘達に言わないでいてくれますか?」
娘さん達に言わないでほしい?
今回の依頼の一つは失せ物探しだ。
ばれて困る依頼ではないだろうに……頭にハテナマークを浮かべる僕の隣で、キーマンさんは真剣な声で「オフコース」と答える。
「絶対、ですよ。…………まず探して頂きたいのは、十年前に失くしたクマの縫いぐるみです。最後に見た場所は、この先にある林の中。雨風に晒されてボロボロになっているかもしれません。もしかしたら原型をとどめていないかも……それでも探してほしいんです。……見つけたら、今、中がどうなっているのか確認してほしい……そして、供養と言うか……怒りを鎮めてほしいんです」
中がどうなっているか……?
怒りを鎮めてほしい……?
なんの話だ……?
「oh……なにか事情がありそうだな。ライアは無しだ。何があったのか教えてくれないか? オフコース、ツインズにはシークレットだ」
シーと立てた人差し指を唇に当てるキーマンさんに、斎藤様は残りのお茶を一気に飲み干すと、こう言ったんだ。
「私……姉がいるんです。私も双子で同じ顔の姉が。……十年前、私は……私は……姉を呪いました。……姉が大事にしていたクマの縫いぐるみのお腹を裂いて、中に……姉の髪と爪を入れて縫い合わせたんです。それを使って……私は……呪いの儀式をしました」
お姉さまを呪った……?
それは一体……
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