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「大福ちゃん、これ持っていきなさい。途中で食べられるようにカリカリをラップで包んだから」
母さんがきなこ用のカリカリをいそいそと持ってきた。
「ちゅるーもいるんじゃないか? ウェットタイプだから水分補給になるし」
父さんも両手いっぱい ”ちゅるー” を抱えてる。
「ほにゃぁ、ほにゃあん」
テクテクテク……ンペッ!
きなこは何かを口に咥えてやってきて、お姫の前にポトッと落としたんだけど……って、やだ……! これきなこのお気に入りのオモチャじゃないの!
コレ、お姫にかしてあげるの?
きなこ……めっちゃ優しい仔!
父さんの話をすべて聞いた大福は、もう一度、飼い主さんに会いに逝くと決めた。
たとえ自分を覚えてなくても、自分は彼女を覚えているし、今だって大好きなのだ。
だから会って顔を視て、今までありがとうと伝えてくるのだと言った。
うん……それが良いよ。
そのほうがスッキリするし、気持ちの整理もつくだろう。
それに大好きな人だからこそ、わだかまりを抱えたまんまじゃ悲しいもの。
大福の目の前。
そこにはカリカリやらちゅるーやらで、こんもり小山が出来ていた。
バラバラじゃあ持ちにくいだろうと、ハンカチを風呂敷代わりにすべてを包むと、母さんがお姫の首に巻き付けた(ちょーーー! 可愛いーーー!)。
巻きつけられた大福は、まんざらでもないようで、『うなん♪』となんだかウキウキだ。
や……でもな、大丈夫かな、現世の食べ物って黄泉の国に持って逝けるのか?
やったコトがないから分からないけど……どうなんだろ?
でもま、せっかくだ。
どうなるか試してみるのも悪くない。
「大福ちゃん、向こうに着いたらウチに連絡くれる? 本当はカアがついていけたら良いんだけど、それは無理だからせめて連絡をちょうだい。そしたら安心出来るから」
しゃがみ込んだ母さんが、姫のオハナをちょんちょんしながらそう言った。
「連絡はどうやってするの? さっきのリーさんみたいに声で? それとも電話? だとしたらウチの電話番号、紙に書いて渡しておかなくちゃ」
ややややや、父さんナニ言ってんの。
黄泉の国と現世じゃ電話通じませんって。
……
…………
『うなななな』
丸い背中に弁当背負って、大福は『逝ってくるにゃ』とそう言った。
その顔は穏やかで足取りも軽い。
僕と母さんと父さんときなこ、みんなでお姫を送り出す。
「気を付けて行くのよ。着いたら連絡してね」←母さん
「もし辛かったらすぐに帰っておいで」←父さん
「ほにゃあん、」←きなこ
「大福、絶対絶対帰ってきてね……!」←僕
みんなが笑顔で送る中、僕1人がチョー必死。
自分から “いっておいで” と言ったクセして、帰ってこなかったらどうしようと心配になったのだ。
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