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「無事に逝ってくれましたね」
昭和メンズを送り出し、僕らは空を視上げていた。
月の位置がだいぶ変わったな。
青みがかった満月は、優しく地上を照らしてくれる。
星屑は天いっぱいに広がって、その中の幾つかはチカチカゆっくり瞬いている。
ああ……綺麗だなぁ、ため息が出ちゃうよ。
僕の隣には、月明かりをたっぷり浴びる水渦さんがいた。
黙ったまんまで空を見て、その横顔は心なしか穏やかだ。
仕事が一段落でホッとしたし、道を呼んでくれたコトのお礼も言いたいし……なにより月の綺麗な夜だもの。
少しお喋りしたいな、……なんてコトを考えながら、僕は話しかけたんだ。
「みんな最後は良い顔で笑ってましたね。でも……まさかなぁ【光の道】に乗った途端、顔が元に戻るだなんて……ビックリしちゃったよ」
そうなのだ。
霊達は ”レッツラゴー!” の掛け声で、揃って道に乗ったんだけど、その途端、道は眩く光り出し、目を開けていられないほどだった。
”眩しー眩しー” 言いながら、しばらくそうして、瞼に透ける強い光が弱まった頃、再び目を開けてみると……ビックリ仰天。
深海を思わせる魚ったフェイスが、優しそうな人の顔に戻っていたのだ。
「私は戻るのではないかと思っていました、」
天を向いたまま、水渦さんがそう言った。
「そうなの? 分かってたんだ、スゴイなぁ」
感心しきりでそう言うと、
「”スゴイなぁ” って……岡村さんも知ってるはずですよね。前に志村さんから聞いたじゃないですか。黄泉の国の話を。その時にこう言ってました、」
____黄泉の国にはオートリカバーというものがあるんだ、
____死者の霊体が傷付けば、
____瞬時に傷を治してくれる、
____【光の道】にもね、
____オートリカバーの簡易版がついてるの、
____黄泉のリカバーほどではないけれど、
____不調の6割程度は治してしまうんだ、
言われて記憶を辿ってみれば……ハッ!
「そういえば言ってましたね。す、すみません、すっかり忘れてました」
そうだよ、今ハッキリ思い出した。
確かに言ってたわ。
同じ日に同じ部屋で、水渦さんと一緒に聞いたんだった。
ああもう、僕ってダメなヤツ。
せっかく聞いた貴重な情報。
忘れてたんじゃ聞いてないのと同じじゃん。
僕本人でさえ呆れるのだ。
水渦さんはもっとだろうな。
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