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駅を背中に右折で真っすぐ。
車が行き交う街道沿いを僕らは並んで歩いてた。
少し前には大福もいて、走ったり止まったり、街路樹に登ってみたりと深夜の散歩を満喫中だ。
秋の夜は肌寒いけど、歩いていればそうでもなくなる。
寒い分だけ空気は澄んで、月は空を蒼い光で滲ませていた。
アパートまでの道のりを、霊視で探せと冗談めいた水渦さん。
楽しそうに目尻を下げて、子供みたいな笑顔を見せた。
今は黙って僕の隣を歩いてる。
特にはなにも話さなくって、だけど、その横顔は穏やかで柔らかい。
しばらくそのまま歩いていると、ふと、水渦さんが足を止めた。
僕もつられて足を止めると、彼女は突然、空を見てこう言ったんだ。
「…………月、綺麗……」
その時の声、その時の顔。
まるで月を生まれて初めて見たような……そんな事はあるはずないけど、でも、そんな風に見えた。
水渦さんは顔を上に向けたまま、口をポカンと開けたまま、蒼い月をただただジッと見つめてたが、やがて目線を僕に移すと、
「岡村さん、少しだけ付き合ってもらえますか」
運行もとっくに終わったバス停の、そのベンチを指差した。
……
…………
2人で並んで座ったベンチ。
木目模様で背もたれはない。
浅く腰掛け空を見れば、月が真上に浮いている。
車の通りはうんと減り、人の通りはもっとない。
「…………あの、」
言いかけた水渦さんだが、その後に続く言葉が中々でない。
僕は気長に待っていた。
色々話したいのだろう、だけどきっと、なにから話していいのか分からないのだろう。
なんといっても今夜、5年振りにお姉さまに会えたのだ。
フラットを装ってるけど、ココロの中は春の嵐に違いない。
「…………あの、……本橋さんが私にくれた物、それを一緒に見ていただけませんか?」
そうだ……本橋さんは帰り際、水渦さんに紙袋を手渡した。
本当は、5年前に渡したはずの水渦さんへのプレゼント。
それがどんな物なのか、実は僕も気になっていたのよね、……で、でもさ、
「一緒に見るのはもちろん良いよ。でもさ、ココで開けるの? 外よ? バス停よ? こういうのって家で落ち着いて開けるもんじゃないの?」
気になってそう聞くと、
「良いんです。1人でいるより岡村さんと一緒の方が落ち着きますので、」
事もなくサラリと答えて、水渦さんは紙袋に手を入れた。
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