第二十八章 霊媒師 三年後

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こんな所で知ってる人に会うなんて、びっくりしすぎて動揺してる。 しかもそれは偶然じゃなく、霊視で探して神奈川県まで来ちゃうだなんて、余程の急用? や、だったらなんで電話しないの? 電話じゃなくても霊力(ちから)を使って声を飛ばせば簡単なのに、わざわざ遥々こんなトコまで……ハッ! もしかして怒ってる?(心当りはないけどさ) 知らない間に僕がなにかをやらかしちゃって、直接顔見て文句を言わなきゃ気が済まないとかそんな感じ? でもな、怒ってるとかそんな顔はしてないのよね……むぅ、分からん。 聞きたいコトが多すぎるけど、あまりに多くてなにから聞いたら良いものか……とりあえず。 「えっと……水渦(みうず)さん、今日は仕事じゃなかったの?」 薄っすら残る僕の記憶じゃ、水渦(みうず)さんは今頃現場にいるはずでは……(先週まで事務仕事をしてたからみんなのシフトを知っている) 「ああ、仕事は休みました。突発で、」 えぇ!? シレッと答えた水渦(みうず)さん……なんだけど、僕はめちゃくちゃ驚いたんだ。 「突発!? 水渦(みうず)さんが?」 「はい。今日だけはどうしても此処に来たかったので」 「ややや、待ってよ! 体調不良じゃなさそうだし、現場を飛ばして突発なんて今までなかったでしょうよ! どんな理由で、……って、その前に、水渦(みうず)さんの現場は誰が行ったの……?」 僕は有給、弥生さんは育休中、この時点で2人減だ。 行ける霊媒師(ひと)はいるのかな、いや……人数的に無理だろう。 聞いてるだけで汗を掻く、僕がアワアワ慌てていると、水渦(みうず)さんは澄ました顔してこう言った。 「心配ご無用。現場には、私の代わりに先代と瀬山さんが向かってくれました。最強のツーマンセルです。安心して任せられますよ」 「えぇ! 代打がまさかのレジェンド2人!? マジか……そうきたか……半世紀ぶりのツーマンセル復活じゃん!」 そうだったのか、確かにそれなら安心だ。 てかむしろ、仲良し2人で現場に入れて喜んでるかもしれないよ。 「そういう訳で何も問題ありません」 キリッと一言、水渦(みうず)さんはかすかに笑う。 「あはは、そうだね。これ以上はないや。……で? 水渦(みうず)さんはどうしてココに? 会社を休んで僕を探して来たって事は、なにか急用があるのかな?」 聞いてみた。 東京都下から神奈川まで、電車で来るにも近い距離じゃないのにさ。 一体なんの用事だろう? 「用事、そうですね。正直、勢いだけで来てしまった感は否めませんが……申し訳ありません。社長から ”ペルソナ” の話を聞いてしまいました。その事で岡村さんがとても落ち込んでいるというのも、」 あ……話、聞いたんだ。 参ったな……内緒にする気はなかったけれど、でも……落ち込んでるとか言われると……なんとなく気まずいな、……そんな事を考えて、僕は……そう、なんとなく黙ってしまった。 水渦(みうず)さんは、そんな僕をジッと見て、何度かなにかを言いかけて、口をパクパクしてたんだけど、少しして、小さな声でこんな事を言い出したんだ。 「……重ね重ね申し訳ありません。許可もなく貴方を覗いて、勝手に此処まで押しかけました。すぐに帰ります、……ですが、もし良かったら、一杯だけお茶を奢らせていただけませんか? どこかで座って温かいお茶を。私と、岡村さんと、猫又と、……それから ”ペルソナ” も一緒に、」 最後の方は尻すぼみ。 でも、彼女は言った、”ペルソナも一緒に” と。 その一言が沁みるほど嬉しかった。 水渦(みうず)さんは僕の返事を待ちながら、おずおずと僕の首元に手をやった。 なんだ……? と思えば。 マフラー代わりに巻いてたタオルが乱れていたのか、優しく静かに整えてくれたんだ。
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