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こんな所で知ってる人に会うなんて、びっくりしすぎて動揺してる。
しかもそれは偶然じゃなく、霊視で探して神奈川県まで来ちゃうだなんて、余程の急用?
や、だったらなんで電話しないの?
電話じゃなくても霊力を使って声を飛ばせば簡単なのに、わざわざ遥々こんなトコまで……ハッ!
もしかして怒ってる?(心当りはないけどさ)
知らない間に僕がなにかをやらかしちゃって、直接顔見て文句を言わなきゃ気が済まないとかそんな感じ?
でもな、怒ってるとかそんな顔はしてないのよね……むぅ、分からん。
聞きたいコトが多すぎるけど、あまりに多くてなにから聞いたら良いものか……とりあえず。
「えっと……水渦さん、今日は仕事じゃなかったの?」
薄っすら残る僕の記憶じゃ、水渦さんは今頃現場にいるはずでは……(先週まで事務仕事をしてたからみんなのシフトを知っている)
「ああ、仕事は休みました。突発で、」
えぇ!?
シレッと答えた水渦さん……なんだけど、僕はめちゃくちゃ驚いたんだ。
「突発!? 水渦さんが?」
「はい。今日だけはどうしても此処に来たかったので」
「ややや、待ってよ! 体調不良じゃなさそうだし、現場を飛ばして突発なんて今までなかったでしょうよ! どんな理由で、……って、その前に、水渦さんの現場は誰が行ったの……?」
僕は有給、弥生さんは育休中、この時点で2人減だ。
行ける霊媒師はいるのかな、いや……人数的に無理だろう。
聞いてるだけで汗を掻く、僕がアワアワ慌てていると、水渦さんは澄ました顔してこう言った。
「心配ご無用。現場には、私の代わりに先代と瀬山さんが向かってくれました。最強のツーマンセルです。安心して任せられますよ」
「えぇ! 代打がまさかのレジェンド2人!? マジか……そうきたか……半世紀ぶりのツーマンセル復活じゃん!」
そうだったのか、確かにそれなら安心だ。
てかむしろ、仲良し2人で現場に入れて喜んでるかもしれないよ。
「そういう訳で何も問題ありません」
キリッと一言、水渦さんはかすかに笑う。
「あはは、そうだね。これ以上はないや。……で? 水渦さんはどうしてココに? 会社を休んで僕を探して来たって事は、なにか急用があるのかな?」
聞いてみた。
東京都下から神奈川まで、電車で来るにも近い距離じゃないのにさ。
一体なんの用事だろう?
「用事、そうですね。正直、勢いだけで来てしまった感は否めませんが……申し訳ありません。社長から ”ペルソナ” の話を聞いてしまいました。その事で岡村さんがとても落ち込んでいるというのも、」
あ……話、聞いたんだ。
参ったな……内緒にする気はなかったけれど、でも……落ち込んでるとか言われると……なんとなく気まずいな、……そんな事を考えて、僕は……そう、なんとなく黙ってしまった。
水渦さんは、そんな僕をジッと見て、何度かなにかを言いかけて、口をパクパクしてたんだけど、少しして、小さな声でこんな事を言い出したんだ。
「……重ね重ね申し訳ありません。許可もなく貴方を覗いて、勝手に此処まで押しかけました。すぐに帰ります、……ですが、もし良かったら、一杯だけお茶を奢らせていただけませんか? どこかで座って温かいお茶を。私と、岡村さんと、猫又と、……それから ”ペルソナ” も一緒に、」
最後の方は尻すぼみ。
でも、彼女は言った、”ペルソナも一緒に” と。
その一言が沁みるほど嬉しかった。
水渦さんは僕の返事を待ちながら、おずおずと僕の首元に手をやった。
なんだ……? と思えば。
マフラー代わりに巻いてたタオルが乱れていたのか、優しく静かに整えてくれたんだ。
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