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「な、なんだ?今のは……ヴォイスだ……とても近くでウィスパーヴォイスがした……けどこの狭いスペースに俺以外に人はいない……アーオ!!ホワーッツ!?YOUは誰だ?姿を見せてくれ!」
パーテーションの向こうで、キーマンさんは盛大に慌てふためいていた。
『人の子よ____』
まただ、またさっきの声だ。
落ち着いたトーンの女性の声は、さほど若くはなさそうだけど、かといって年老いた感じでもない。
少し高めで優しげで、それでいて凛とした綺麗な声だった。
「だからっ!どこにいるんだ?もしかしてYOUは幽霊なのか?だから俺には視えないのか?結界があるこのビルディングにどうやって入った!?um!声は聴こえるってのに、こんなこと初めてだ!チキンスキン!チキンスキン!ワァァアアオ!!」
え……?や、ちょっとキーマンさん、そんなに?そこまで?
『人の子よ____私の話を聞きなさい』
「AHHHHHHH!!!また声が聞こえた!ジーザス!!ジーーザスクライスト!!!」
『……人の子よ、』
「ウェイウェイウェイ!ウエーーーイト!!怖っ!声だけ聴こえるの怖ーっ!!」
激しく狼狽するキーマンさんが心配で、ダイジョブですか?と聞こうとした僕だったが、苛立った叱り声に先を越されてしまった。
『えぇい!黙れ人の子!落ち着け、たわけが!』
「……!?」
あ、キーマンさん黙った。
『ふぅ、やっと静かになった、』
「ソ、ソーリー。俺……マイルドにパニックだったな」
『人の子よ、マイルドどころの騒ぎじゃなかったわ』
「そ、そうか、ソーリー。ハウエバー……姿を見せないYOUもbadだぜ?だからうっかりパニックに……いや、違うか。あんたの正体はわからないが、本当は近くにいるんだろう?あんたは悪くない、悪いのは、視ることが出来ない俺だ」
『極論だな。視えないから悪い、ということではないだろう。違うか?人の子よ____いや、キーマン』
「な……!なぜ俺のネームを知っている!?」
『そりゃあ、ずっと同じ部屋にいたから話聞いてたもの』
「同じ部屋にいた?おまえ……(ピコーン!)いや、あなた、もしかして……先代ですか!?生前より声が高くなって口調もキャラも変わった気がするけど……!先代、あなたなんですね!?」
や……キーマンさん、違いますって。
先代、僕の隣にいるし。
『違う、私は平蔵ではない。落ち着いてよく考えろ。自分で、"声が高くなって口調もキャラも変わった気がするけど"って言ってただろう?そこまで違うなら、すなわち別人だ』
「アウチ!ヘイヘイヘイ!あんたは先代じゃあないのか。そうだよな、キャラ変わりすぎだよな。じゃあ一体あんたは誰なんだ?先代を”平蔵”と呼び捨てか?先代が亡くなったのは78才。あんたの声……そこまでの年じゃないだろう?年上には敬意を払うものだぜ?」
『年上には敬意を払うもの?……笑止!なら聞くがキーマン、おまえ私がいくつだと思ってる?途中20年目で死んだものの、この世に生を受け56年だ。人の子年齢で言えば56才。だが我ら種族の数えで言えば237才になるのだ。78才なんて青年に等しい。それに私と平蔵の仲だ、呼び捨てにして何が悪い』
237才!?
超シルバーじゃないですか!
ん……だけど、この世に生を受けてからは56年なんだよね?
計算ヘンじゃない?
「ハッハー!YOU!話盛りすぎ!56才なのに237才って!チッチッチッ!どんな計算したらそんなアンサーになるんだ!」
姿なき声だけの存在にだいぶ慣れてきたのか、調子を取り戻しつつあるキーマンさんがツッコみを入れた。
『キーマン、人の子の常識がすべてだと思うなかれ。我らは生まれて最初の1年で、人の子年齢に換算すると一気に17才まで成長するのだ。その後は1年で4才ずつ年を取る。人の子とは年の取り方が違うのだよ。だから生まれて56年=237才になるんだ。わかるか?暗算できるか?』
最初の1年で人間の年齢で言うところの17才になり……その後は1年で4才ずつ年を取る。
人間よりも早い成長、この年の取り方は……間違いない、猫だ。
今、キーマンさんと話をしているあの声は、パーテーションの向こうに姿を隠したあの声の主は、もしかして……大福なのか?
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