第十二章 霊媒師 水渦ー1

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「……エイミー、大丈夫か?」 ……………… 心配そうに覗き込む社長に僕は短く頷いた。が、本当は大丈夫ではない、ひどく動揺している。 話を聞いて、水渦(みうず)さんへの怒りと不信感が増した。 どうしてあんなことをしたのか……1人で考えても答えはでない。 僕は意を決してベンチから腰を上げた。 この匂いには少し前に気が付いた。 水渦(みうず)さんへの怒りが、僕の超平和主義を上回ったあたりから漂いはじめたんだ。 最初は薄く、花の香りにまぎれていた。 それが今、ズキズキ痛む鼻の奥に、吐き気を誘う強い異臭が流れ込んでくる。 腐敗した生肉のような、夏場に放置された生ごみのようなひどい匂いは、会社建物から……建物の3階から……3階の真ん中から……真ん中のあの部屋から、赤黒い(もや)と一緒に漏れ出していた。 見上げた視界に映る窓には白いブラインドがさがり、外から中が見えないようにきっちりと閉められているが、今の僕にははっきりとわかる。 甘いお菓子の匂いとは違うけど、キーマンさんが言っていたのはこういう事だったんだ。 「水渦(みうず)さん!3階の真ん中の部屋!そこでずっと僕らを視てますよね!」 湧き上がる怒りに視界が赤く染まる僕は、爆発寸前の感情を燃料に大声を張り上げた。 「なんで店長(あの人)を消したんですか!?うるさかったからですか!?イライラしたからですか!?死者だったからですか!?朝から不愉快だったからですか!?」 僕の怒声を無視するようにブラインドは開かない。 だけど強まる腐敗臭、これは多分水渦(みうず)さんの感情の匂い(・・・・・)だ。 彼女は3階のあの部屋で、絶対に僕の声を聴いているはずだ。 「もしも店長(あの人)の声がもう少し小さかったら!水渦(みうず)さんの機嫌が良かったら!店長(あの人)が生者だったら!夜だったら!もしそうだったら滅さなかったんですか!?ぜんぶアナタの気分次第ですか!?店長(あの人)は生者に害は成さない、そんなの新人の僕にだってわかる!水渦(みうず)さんだって分かっていたはずだ!それなのにどうして滅したんですか!?それもわざわざ苦痛を与えて!水渦(みうず)さん、聴こえてますよね?黙ってないで答えてください!どうしてあんなことをしたのか、僕にわかるように!」 納得のいかない理不尽に怒りと疑問をぶつけ、僕は水渦(みうず)さんの答えを待った。 ガンッ!! え……? ガンッガンッ!! ガシャッガシャッガシャッガシャッガシャガシャガシャガシャ!!! どうしたの!? 見れば窓ガラスが激しく揺れている。 どうやら水渦(みうず)さんが、部屋の中からブラインドごと窓を叩いているようだ。 「ミューズ!やめろ!」 ガラッと窓が開く音に社長の大声が重なった。 グシャグシャになったブラインドを掻き分けて、窓から身を乗り出す水渦(みうず)さんは、真っ直ぐに腕を伸ばし、人差し指を僕に向けた。 「うるさいっ!うるさい、うるさい、うるさい!偉そうにするな!黙れっ!!もう消す!このゴミがぁぁ!!」 低く割れた大声で僕をゴミ呼ばわりした半瞬後。 彼女の指先が蒼く、そして強く光った。 ビュンッ!! それは風を切る音と共に勢いをつけて放たれた。 僕は理解した。 あれは店長さんを滅したのと同じものだ。 蒼い火花を散らせ、僕に向かって真っすぐに飛んでくる発光の電気の矢。 水渦(みうず)さん、アナタは僕が気に入らないんですね? だから僕の事も滅するつもりなんですね? だめだ。 矢はもう目の前で、とてもじゃないけど避けられない。 大福、ごめんね。
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