2372人が本棚に入れています
本棚に追加
第十二章 霊媒師 水渦ー2
祓い屋の霊媒師として、無差別幽霊消去を改めてもらおうと、僕と社長とで水渦さんと話し合っていた朝一番。
水渦さんの強い拒絶に空気が悪くなってきた頃、まさかのユリちゃんのカミングアウト(告白とも言う)に全員が度肝を抜かれたってのが1時間前のお話。
頑なだった水渦さんは、ユリちゃんと社長を観察したい(正確には社長が困っているのを見るのが楽しいらしい)がゆえ、解雇されないように、これからは無差別幽霊消去はしないと約束してくれた。
動機がいかがなものかと思われるが、とりあえず止めてくれるなら少し様子を見ようと言うことになった。
そして今、僕と水渦さんは事務所に残り、ユリちゃんは社長と2人、庭のガーデンテーブルで向かい合っていた。
な、なに話してるんだろう?
気になる……けど、これはプライベートなことであって、覗きなんて、そんな、だめだよね、うん、僕はガマンするぞ。
という思いと行動に乖離が生まれた。
そっとしておこうという心とは裏腹に、僕は事務所の中でも庭に面した窓にへばり付き、2人を盗み見していた。
「岡村さん、そのような閉ざした窓越しに2人の声は聴こえますか?」
淡々と能面で問いかける水渦さんに、僕は慌てて言い訳をする。
「べ、別に声なんか聞こえませんし、聞こうとも思ってません。ま、窓の点検をしていただけです。最近ガタガタ言うから……モゴモゴ」
「そうですか、では引き続き点検をお願いします」
「み、水渦さんは?なにしてるんですか?」
「私ですか?私はこれから少々したい事がありまして、」
そこで話を止めた水渦さんは、シュババババと高速な動きでもって手指を組み換え印を結び始めた、その十数秒後。
「捕捉成功、2人を霊視ます」
「えぇ!?1人で!?ズルイ!!……あ、」
思わず出た僕の本音に水渦さんは、ニタァと笑い、
「岡村さんも霊視いいじゃないですか。…ああ、そうでした。“期待の新人”さんは、まだ放電しかできないんですよね、」
と嘲った。
「くぅ……言い返せない、」
前に1度だけ田所さんの過去を霊視したことがあったけど、あれは社長の霊力があったからだし、視ようと思って視たんじゃないから、自分の意思で霊視ができないんだ。
「まぁいいです。今日の私は機嫌がいいので岡村さんにも視せてあげます。私の肩に手を置いて目を閉じてください。岡村さんのように霊力がある人なら私と同期をとる事は可能でしょう。……さあどうですか?2人が視えますか?2人の声は聴こえますか?」
最初のコメントを投稿しよう!