第十三章 霊媒師 清水誠

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◆ 社長が岩塊だとするならば、社長のお父さんは巨大な岩山だった。 濃紺色の和服姿で、やはりと言うべきかゴツゴツのドデカイ筋肉が着物の上からも容易に窺える。 そして強烈なまでに感じる血の繋がり。 剃り上がったスキンヘッドは鈍く光り、息子とそっくりな整った顔立ちに深い皺を幾数も散りばめて、社長の数十年後を見ているような錯覚に陥る。 190cm越えの息子よりも目線が高く、上背はゆうに2mを越えているのではないだろうか? 「いらっしゃい、よく来てくれたね。男所帯で散らかってるけど遠慮せずにあがってください」 乱暴な言葉使いがデフォルトの社長とは違い、見た目の屈強さからは想像のつかない穏やかな語り口が好印象だった。 「おじゃまします」 生者である僕とユリちゃんは脱いだ靴を玄関先で揃えた。 死者である先代は靴のまま一歩中に踏み出すも、上げた足が廊下に着くと同時に靴が消え、足元は薄茶色の靴下へと変化した。 「先代の靴が消えた!」 思わず声を上げた僕に先代は、 「幽霊って便利でしょう?」 と親指を立てた。 先代は軽く言ってるけれど、幽霊が自身の容姿を変化させると言うのは中々高度な技なのだ。 前に雑談の流れで聞いた事がある。 幽体が身に着けているものは、当たり前だが実体はない。 なんらかの未練によって幽霊化する時は、生前着ていた服が一緒に再現される(幽霊も真っ裸(マッパ)はイヤでしょ)。 幽体は言わば電気信号の集合体だ。 幽体(からだ)はもちろん、衣服から装飾品に至るまですべてが電気でできている。 その電気信号を分解し再構築することで、幽体もしくは身に着けているものを変化させることは可能ではある。 だけどそれが難しい。 例えるなら1万パーツあるプラモデルの構造を完璧に理解し、それらをいったん分解し、パーツを余らせることなく別の形に組み替えるようなものなのだ。 ____そこの戦車の精密プラモ、改造して戦闘機に造り替えてよ。 ____マニュアル?ないない、そんなの自分で考えて。 ____また後で戦車に戻すからパーツは失くしちゃダメだからね。 みたいな感じ。 普通はやらない、てか、できない。 だってプラモじゃないんだもん。 数多の電気信号が複雑に絡み合い造られている自分の幽体(からだ)の改造なんて、失敗を考えたら怖くてできない。 下手したら分解の段階で電気が飛散して、再構築できなくなるかもしないし、なんとか再構築したとしても思っていたのと違う出来になる可能性だってある。 それを先代は、玄関から宅内に足を踏み入れる短いワンモーションで完璧にやってのけたのだ。 ただのカワイイ幽霊お爺ちゃんと侮るなかれ、相当の手練れだ。 ま、靴を履いたままでも幽体だから家が汚れたりはないんだけどね。 その辺は先代の性格なのだろう。
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