第十四章 霊媒師 ジャッキー

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『この白ブタ野郎ぉッ!! 褒めてやるッ!! 正解だぁぁぁッ!』 “白ブタ野郎”って……ちょ、もしかして黒十字様のコト言ってる? 名前が(はく)だから“白ブタ”なの? うわぁ……デグさん氏、めっちゃ口悪いよ。 方向性は違うけど社長レベルの悪さだわ、コレ。 「なぁ今の! トンツーだろ!?」 興奮した黒十字様が部屋の中央に向かって叫んだ。 すると軍帽で目元の隠れたデグさん氏がニヤリと笑い、 ダンッダーッ ダーッダンッダーッダーッダーッ ダーッダーッダーッダンッダーッ! とポ現、ソロプレイ。 黒十字様は今の音を指先で再現しつつ、 「これは……イ、エス……“イエス”、肯定か!」 クローゼットの中から四つ足高速で部屋に出ると、目を輝かせてキョロキョロし始めた。 まるで幽霊達を探しているように見えるのだが、この変わりようはなんなの? “イエス”、肯定か! の意味もよく分からないし……頭にハテナマークを大量生産している僕に、頼れるリーダーが解説してくれた。 『今のはね、幽霊達と黒十字様が直接コミュニケーションをとったんだよ』 「直接? だって黒十字様に幽霊の姿は視えませんよね? 声だって聞こえないはずだし。どうやって意思疎通をしたんですか?」 『それはね、通称トンツーと呼ばれたりもするけど、モールス信号って聞いた事ない? トンという短符とツーという長符で構成された通信なんだけど、』 「……あ! 聞いた事あります!」 『幽霊達(みんな)は滅茶苦茶に壁を叩いていたんじゃないんだ。床をダンッと叩く短符と、壁をダーッと引きずる長符を組み合わせてモールス信号を送っていたんだよ。それで自分達の気持ちを伝えたんだ』 「そうだったんだ……僕にはぜんぜん分かりませんでした。ジャッキーさんはいつ気が付いたんですか?」 『すぐに気が付いたよ。1番最初のダンダンダン! という注意を引くような音の後、仕切り直すようにデグさん氏が発砲したのを視ておかしいなと思ったんだ』 「へぇ、僕なんか拳銃撃ったの視てビビりまくってましたけどね」 『仕切り直してすぐに、“ダーッダッダッダッ ダッダッダッダーッ”って叩いてたでしょう? 前半のダーッダッダッダッ。この【ツートントントン】は、【ハ】、後半の【トントントンツー】は【ク】。それで名前を呼んでいるんだって分かったんだ。次の信号は【ごめん】、その次のは【イエス】だったよね』 すぐに分かったって……スゴイな。 てかモールス信号ってそんなに身近なモノだったっけ? 僕みたいに名前しか知らないって人の方が多数だと思うんだけど。 『ああ、確かにトンツーで五十音、アルファベットを暗記している人は少ないかもしれないね。でも自分や黒十字様やオタク幽霊達は知っていてしかりだと思うよ?』 「どうしてですか?」 『それはね、レキナがトンツーを使うんだ』 「レキナって、“戦国時代にタイムスリップゥ?赤点コレクター★レキナのもっと歴史の勉強しとけば良かった!丸腰女子高生、、、あばばばば!”途中は忘れた。 とにかくジャッキーさん達が好きな深夜アニメの主人公でしたよね?」 『そう、レキナは勉強は大嫌いだけど趣味は多彩でね。その趣味の1つにトンツーがあるの。作中でもしょっちゅうトンツートンツーしてるんだよ。オープニングとエンディングもそれに合わせて、歌詞はあるけど歌うのは歌手じゃない、トンツー音なんだ』 「えぇ……それシュールじゃないですか? アニソンですよね? 普通歌いますよね? なのに歌詞通りひたすらトンツートンツーするだけなんですか……?」 『そう! ポップな音楽に乗せたトンツーが意外と合うんだよ。そういった事情から、ほとんどのレキナファンはトンツーマスターと言って過言ではない』
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