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「特に母は、日に日にやつれていったよ。日中、仕事に出る父と妹と違って、付きっ切りで世話をしなくちゃいけない。それでも母は自分を責めなかった。ゆっくりでいいから、そのうち義足を見に行こうって言ってくれた。けど父は『だからスタントマンなんて反対だったんだ』とそればっかりだし、妹は、そんな父をたしなめて『気にしなくていい』と言ってくれた、けどね」
作ったばかりの水割りを、またも一気に飲み干した。
ふーっと息を吐いたジャッキーさんは、グラスを握ったまま重く口を開く。
「それからしばらくして……妹が恋人と別れたんだ。学生の頃から付き合っていて、そろそろ結婚の話が出てもおかしくないのに。
ある日、妹が泥酔して帰ってきてね。玄関開けるなり大声でわめいてた。
その声はリビングで動けない自分にも聞こえてきたよ。『彼氏に振られた、私とは結婚できないって言われた』って」
そんな……どうして……?
「自分は憤慨したね。長く付き合っておいて、30近くになった妹を今さら捨てるのかってさ。
暴れる妹を両親がなだめてたんだけど、自分も行かなくちゃって、なんとか這って玄関に向かったんだ。
そんな無責任な男、兄ちゃんが叱ってやるって意気込んでた。
だけど、玄関に着く前に聞こえちゃったんだよ。小さな声だったけど『お兄ちゃんのせいだ』って泣いているのがね」
握ったままのグラスをテーブルに置き、水割りのおかわりを作ろうとするジャッキーさんの手を止めた。
不思議な顔をするジャッキーさんに、僕に作らせてくださいと申し出る。
形の崩れた梅干しを新しいのに入れかえ、氷をグラスの淵まで入れて焼酎は少な目に、そしてたっぷりの水を注いでかき混ぜたら完成だ。
「はい、どうぞ」
渡したグラスを受け取ったジャッキーさんは「ありがとう」と笑う。
「そのまま寝てしまった妹は、次の日には何事もなかったように起きて、元気に会社に行ったよ。辛かっただろうに、泣いたのはあの夜だけで、それから一切の文句も愚痴も言わなかった。本当に……アイツには頭が上がらない。
あ、ちなみに妹は別の人と結婚して、今は埼玉に住んでるんだ。父と母も妹夫婦と同居して子供も2人いるから、大所帯6人家族で幸せにやってるよ」
「そうなんですね……良かった。優しい妹さんだもの。今が幸せなら僕も嬉しいです」
「ありがとう。妹の旦那も良いヤツでね。ただ困った事に、酔うといまだに『爆薬の量間違えてすんませんでした』って言うんだよ。いい加減しつこいよね、ははは」
「え! 妹さんの旦那さんって、もしかして……」
「そう、爆薬の量間違えた、あのスタッフ君なんだ。自分のトコに謝罪で通う姿を見続けてるうちに、妹が彼を好きになっちゃってね。まぁ、良かったよ。ま、そんなハッピーエンドは随分後の話で、その前にもう一悶着あったんだ。それはね、」
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