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「白雪ちゃん、煤だらけだよ? どこに行ってたの?」
自分の胸から抜け出したマジョリカが、煤に塗れた白雪ちゃんに駆け寄った。
よくよく見れば、黒いタンクトップから露出した、鋼の腕や首に擦り傷のようなモノがたくさんある。
怪我をしてるのか……?
黄泉の国のオートリカバーがあれば、死者の傷や疲労は自動修復されるはずなのに、一体何があったんだ。
「あのね、マザースターに行ってきたの。そこにあるコレを取りに行ってたんだ」
マザースター?
それが何かは分からないが、白雪ちゃんの手には赤色の丸いモノが握られていた。
同時にマジョリカをはじめオペレーター全員が激しく動揺している。
いつだって余裕を崩さないバラカスでさえ、咥えたタバコを落としそうになっていた。
「白雪よぉ、あんまり無茶すんなや……下手すりゃ、オマエ取り込まれて消滅だぜ?」
黒い楕円の奥の目は呆れたような、それでいて安堵したような、複雑な色を浮かべていた。
「心配かけてバラカスもみんなもホントにゴメン! でもね、マーちゃんとジャッキーさんにどうしても渡したいモノがあったの。んもーダイジョウブだよ! 簡単に取り込まれたりしない! 生者の16才の頃から鍛えて鍛えて鍛えまくって、死後300年間も更に鍛えまくったんだから! 戦闘民カンガル族なんて赤子同然、自惚れじゃないわ……黄泉の国で最強は私! なんてね、えへへ」
力強く最強宣言をした後に、数々のファイティングポーズをとる白雪ちゃん。
おふざけに見せてボディビルのそれとはまったく違う、素人目にも戦闘慣れしているのが分かる。
生者の頃は一国の女王様だったとバラカスが言っていた。
きっと数々の修羅場を潜り抜けてきたのだろう、ゆえに優しさと厳しさを併せ持つのかもしれない。
白雪ちゃんがポージングを決めている間、マジョリカが”マザースター”について簡単に教えてくれた。
黄泉の国にとってなくてはならない”母なる星”で、その大きさは太陽系にある木星の10倍程度(”程度”というスケールじゃないと思うが)。
強い霊力を含んだ電気を主成分とする惑星で、そこから降り注ぐ電霊力が黄泉の国を造り支え、成り立たせているのだという。
「ウチらの身体も、街も食べ物も花も木もすべてが電気信号の集合体だと言っただろ? じゃあ、その電気はどこから来てるのかって話になると思うんだけど、それが”マザースター”なんだ。あの星が無ければ、ウチら死者も黄泉の国も消滅するんだよ」
地球にとっての太陽のような存在か。
だがそれだけの力を持つ母なる惑星は、その力が脅威にもなる。
もしも人が太陽に降り立てば、一瞬の間もない速さで身を焼き溶かしてしまうだろう。
マザースターも然り。
黄泉の国の研究者達は年に数回、調査の為にマザースターに向かう。
ここ1000年程は、少なくなってきたとは言うが、それでも稀に事故が起こる。
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