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子供みたいな先輩霊媒師を宥めるべく、ジェ〇ガを提案したというのに、それもイヤなのか無視をする。
もー、僕はいいけどジャッキーさんが困っちゃいますって、と思っていたら、当のジャッキーさんは声を上げて笑い出した。
「あはははは。水渦さんは素直な子だ。よっぽど悔しかったんだねぇ。そうかそうか、女の子はそれくらいでいいんだよ。不満や不安があっても無理に笑う子もいるだろう? 男は馬鹿だからね、それじゃあ気が付けないんだ。当たり散らしてくれた方が分かりやすい。分かれば何とかしてあげられるもの」
そう言って少し遠くを見たジャッキーさんは、すぐに水渦さんに向き直る。
「水渦さん、ジェ〇ガもウーノもしたくないの? じゃあ【Game of Life】ならどう? ……ん?」
ドキっとするような優しい目で、水渦さんを覗き込むジャッキーさんに、ヘソ曲げ霊媒師も今度ばかりは素直に頷いた。
てか……猛獣使いですか。
当然のようにボードのセッティングは僕、な流れになんの疑問も持たずにセットしていると、水渦さんがジャッキーさんにこう言った。
「志村さん……その耳。ピアスなんてしてたんですね。気が付きませんでした」
ピアス? と、僕も目線を上げてみる。
「あ、本当だ! それはルビーですか? すごくキレイな赤色だ」
耳に手をやるジャッキーさんは、なんとも言えない表情で「この8年、ずっとしてるんだ」とだけ答えてくれた。
その空気から、赤いピアスがとても大事な物なのだと伝わってくる。
「二人とも、好きな人はいるのかい?」
突然の質問だった。
それに対し答えない水渦さんと、「猫又の大福です!」と答える僕の温度差と言ったら……もう。
「あのね、もしも好きな人がいたとして、その人が同じ現世にいるのなら、迷ったりしないで素直にぶつかるといい。想いが通じ合えば無敵になれる。毎日が幸せで、いつもより優しくなれて、困難にも立ち向かえるんだ。ぶつかってみて残念ながら想いが届かなくても、何もしなけりゃ後悔するよ。……ねぇ、水渦さん。自分はすごく、そう思うんだ」
え、ちょ、水渦さんだけですか?
僕にも言ってくださいよーなんて、ふざけてみたけど、笑ったのはジャッキーさんだけだった。
「なんて、説教臭かったかな? これだからジジィは困ったもんだ。あ、エイミーさん、ボードのセッティングありがとう! さぁ! もう一回だけゲームをやって、これが終わったら少し早いけど夕飯にしない? どうせならみんなで食べたらおいしいよ」
いいんですか! ぜひ!
それから今日のレシピもぜーんぶ教えてください!
そんな僕の欲張りセットに「もちろんだよ!」と笑ってくれるジャッキーさん。
水渦さんの機嫌も直ったし、いやぁ、良かった良かった。
その後、【Game of Life】と、みんなで食べるお夕飯を大いに楽しんだのだ。
あぁ、本当に良い一日だった。
ジャッキーさんにも水渦さんにも出会えて良かった。
またこのメンバーで集まれるといいなぁ。
結局この日の帰りは終電だった。
水渦さんと歩く月夜道。
風に冷たさがなくなって、初夏が近づいているのだと思わせる夜だった。
霊媒師 打ち上げ、そして黄泉の国の話__了
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