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ジャッキーの走る速度が上がった。
アタシを抱えて助走をつけて。
数メートル先の斜め上、捕らえられたマジョリカに向かって、思いっきりアタシの身体をぶん投げた。
同時、使うチャンスを逃した構築済みのパンツァーファウストを出現させて、地面に向かって撃ち込めば、その衝撃はアタシの身体を更に高く運んでくれた。
『大倉ぁっ!』
拘束されたマジョリカは、暴れまくって霊体を下げて、アタシに向かって手を伸ばす。
下を見れば意外と高い、だけど怯んでなんかいられない。
【闇の道】まで刻々と距離が縮まってるんだもの。
アタシの霊力じゃ死者に触れる事は叶わない。
だから構築した。
霊力でもって出現させた紫色の霊鎖、これを手にグルグルと何重にも巻き付けた。
直接は無理でも、霊鎖を介すれば触れられる。
女二人で手を伸ばし合った……けど、あと数センチが届かない!
ああ、クソッ!
手を掴めないまま、重力がアタシを地面に引き戻す、アタシの身体が降下する、マジョリカとの距離が広がっていく、それを視ていた黒タイツ野郎は口を三日月に嘲笑ってて____
この下衆がっ!
今のうちに笑ってろ!
絶対に諦めない!
アタシはしつこい性格なんだ!
『大倉ぁっ!』
マジョリカも諦めてない、泣いてはいるけど黒くない、きっとアタシを信じてる、こんなアタシを、邪魔なアタシを……応えるからね、絶対に!
ブンッ!
背中を下に落ちながら、手に巻き付けていた霊鎖を飛ばした。
イメージ大事、頭の中にはカウボーイが浮かんでる。
長い鎖に霊力を流して操って、マジョリカの細い腰にこれでもかと巻き付けた。
ガクンッ!
身体の降下が止まった。
マジョリカに絡む霊鎖がアタシを吊るす。
アタシの身体の重さの分だけ、闇の触手が引き下げられて【闇の道】から少しだけだが距離が稼げた。
「痛かったら悪い、」とブラブラしながら、上を視上げて手を振った。
『ダイジョウブだよ、でもお願い! 早く来て!』答えるマジョリカは苦しそうだ。
モタモタしてなどいられない。
アタシは野生の猿顔負けの速さでもって鎖を登り、黒タイツ野郎にメンチを切った。
「マジョリカを離して、地獄逝きはアンタだけだよ」
『邪魔するなよぉぉぉ! 俺はタダで地獄にはいかないからなぁぁぁ! 道を呼んだこの女を許さないぃぃぃ! 一緒に連れて行くぅぅぅ! 邪魔するなら弥生も道連れだぁぁぁ!!』
恰好悪い、往生際が悪い奴は嫌いだよ。
自棄になった悪霊は、両手でマジョリカを抱きかかえ、絶対に離さないと意思表示をする……マズイな。
今から霊刀を構築するには時間がない。
それにマジョリカも斬ってしまうかもで使えない。
早くはないけど、触手は【闇に道】へ着々と距離を詰め続けるし。
『……! そうだ! 髪! 弥生の髪を寄越せ! 心臓は無理でも髪くらいなら、今ここで吞む事が出来る、弥生の髪を呑み込んで、霊力をつければ逃げられるかもしれないっ!』
抱えてるマジョリカの髪ではなく、アタシの髪を欲しがるのは、この状況から逃げたくてたまらないといった所だろう……ま、当然か。
そうか、そうだよな、……ん、分かった。
「髪が欲しいか?」
『欲しいっ! 寄越せ! 今すぐだ! 俺は地獄に逝きたくないんだ!』
全身黒タイツだからアタシの目には表情は映らない。
けど、耳まで裂けた口の端が泡だっているのがキモチワルイ。
どんだけ必死だよ。
餌、見つけた。
「そんなに欲しいのか。オマエごときがアタシの霊力を扱えるとは思えないけど、試してみるか?」
アタシの言ったセリフにマジョリカの眉間にシワが寄る、訝し気にアタシを視てる。
手に持つ霊鎖をアタシの腰に巻き付け直せば両手が空く。
今、女二人は霊鎖で完全に繋がった。
これで助かっても助からなくても、この後の運命はお揃いだ。
黒いワンピースのポッケの中から、さっき拾った光るモノを取り出した。
元はジャッキーん家のキッチンにあったんだ。
悪霊が持ち出して、ジャッキーの手に渡り、今はアタシが手にしてる。
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