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『岡村君、私はねぇ、伊達に年を取っているのじゃないのだよ。酸いも甘いも嚙み分けた享年78才。ウチの社員は全員、私の子供みたいなもの。長女の好きな人は誰なのか、そのくらい見てれば分かります。ちなみに長男が誰を好きなのかも知っていましたよ。ああん、もう焦れったい! と、ずっと思っていました……ふふふ』
そ、そうなのか……さすがだ……!
ん……そして、長女は弥生さん、長男はジャッキーさんってコトだよな。
二人共、男女別で一番の年上だ。
てことは次女は水渦さんで次男は社長でOK?
「先代……さすがです……さすがの洞察力……! あ! てコトは! いっこ聞いても良いですか!? 実はですね……水渦さん、どうやら好きな人がいるらしいんですよ。その相手、先代は誰だか知ってます? ウチの会社ですか? それとも全然別の会社? 僕、ぜぇったい誰にも言いません! だから、ね? ね? 教えてくださーい!」
先代の性格じゃあ、そんなコト教えてくれなそうだけど、ダメ元で聞いてみる。
だって気になるじゃーん!
『水渦ちゃんの好きな人? ……んー? ん。……岡村君、それは本気で聞いているのかな? いやぁ、だって、ねぇ。えぇ? 本当に分からないのかい?』
先代は半ば呆れ顔で僕を視る。
本当に分からないのかい? って……す、すみません、分からないです。
「えっと……ちょっと予想がつかなくて……最初は、もしかしてジャッキーさんの事か好きなのかなぁって思ったんだけど、本人に聞いたらチガウって言うし。……ハッ! もしかして! 僕がまだ会った事のない、先輩霊媒師の方ですか!? なんかタイミングが合わなくて、中々お会い出来ないんですよねぇ。早く会ってみたいなぁ」
『ありゃ、そうだったっけ。岡村君はまだ、あの子と会ったコトがないのか。まぁそのうち会えますよ。彼は一番若いけど良い子ですから、きっと岡村君と気が合うでしょう。あとね、水渦ちゃんが好きな子は、あの子じゃないですよ』
ハンバーグを味わっているのか、話終えたと同時に口をモグモグさせている。
お口に合ったのか、ニコーっといい笑顔。
ヨッシャ! 嬉しっ!
けど水渦さんの好きな人が気になるっ!
「えー、じゃあ誰なんですかぁ? ぜぇったい内緒にしますからぁ! おーしーえーてー!」
向かいに座る先代に両手を合わせて頼み込むも、相手が死者だと”お願いポーズ”が”合掌”に思えてしまう。
ま、でも、間違ってはないからいっかと、合掌しながらしつこく食い下がった。
『んー、そうねぇ。岡村君なら誰かに喋ったりそなそうだけど、この場合、言って良いものか……否、ダメでしょうなぁ』
先代はこう独り言ちると『うむー』と唸り、答えてくれない。
くっそー、よく分からないけど、教えてはくれなさそうだ。
でま、ま、仕方ないか。
人の秘密の話だし、ダメ元で聞いたんだ。
先代が教えてくれないなら、これ以上しつこくするのはヤメにしよう。
「先代、すみません。僕もう、」
あきらめます、困らせてゴメンナサイって言おうとした時だった。
油断してたんだ。
このおじいちゃんの洞察力を。
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