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「世界で最も価値のある悲鳴を知っていますか?」
「あなた、依頼人を馬鹿にしているの?」
女が問いを返した。
「滅相もない。私は正直だけが取り得ですから」
「ふん、正直者の殺し屋なんてお笑いよ」
私は慇懃に答えると、女が美しい顔を歪めてせせら笑う。
どうにも短気な依頼人は嫌いだ。
それが女だと最悪である。
私のような小心者には扱いかねる。
ほとほと困り果てていると、女が勿体ぶるように口を開く。
「世界で最も価値のある悲鳴よね?」
「ご存知ですか」
「たしか『ウィルヘルムの叫び』よね」
「それは最も有名な悲鳴でございます」
「あら、映画の効果音として有名よね。あたし映画女優をしていたから知っているの」
どうりで見たことのある顔だと思った。
元映画女優なら美しい顔なのも納得できる。
いかんせん性格までは顔に倣わなかったのか。
それでも美人は大金をもてるのだから、よほどの金づるになる男がいるのだろう。
私のように園芸しか能のない男には無縁の話だ。
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