世界で最も価値のある悲鳴

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「それは任せてちょうだい」  女の邪な愉悦を見ないように、私は慇懃に頭を下げた。 「愛人は私のものになるのは約束されているけれど。でもあの女が苦しんで死なないと満足しないわ」  美しい女が暗い笑みを浮かべた。  私は少し胸を痛める。  こんな愚かな女に利用される花を憐れんだ。  それから数日が経った。  そろそろ依頼人が対象を殺した頃だ。  私はビニールハウスに植えたマンドラゴラの肥料を買いに街に出る。  ふと通った街頭テレビの前が、やたらと人だかりで騒がしいのに気づいた。  興味本位で近くの者に訊く。 「何の騒ぎですか?」 「大統領の重大演説があるんだよ」 「それでこの騒ぎですか?」 「テレビだけでなくネットでも全世界中継されてるよ」  それは面白い。私も見物することに決めた。 『私は清廉潔白です』  大統領が演説する。 『それを払拭するために宣言します。私は妻を愛しています。愛人がいるなどデマに過ぎません』
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