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薄暗い洞窟に外からの光が流れ込む。
周りには、胸に大きな穴を空けた軍服の死体が転がり、腕がもげているものもあった。
僕と残る1人は、ピンを抜いた手榴弾を震えた手で握りしめて涙を流していた。
「て……天皇陛下、ばんざぁい!!」
そいつがが突然叫んだかと思うと、彼は起爆筒を頭に叩きつけて手榴弾を胸に抱える。
4秒ほどすると、巨大な爆発音と共に、彼は散った。
「う゛あああああぁ!!!!」
僕はその生々しく花開いた彼を見て、手榴弾を持ったまま悲鳴をあげることしかできなかった。
頭が真っ白になる。と思いきや、暗い洞窟の隅々がよく見えた。別に観察していたわけじゃない。
自決して何になる―――
頭の片隅で、なにかが自分にそう囁く。それと同時に、自決しなければならないのだと言う、何に例えればいいかわからない使命感に近いものが手榴弾を放さない。
「おかしいだろぉ!!」
洞窟中に谺する。
外は敵、敵、敵。そして、すぐそこまで追い詰めてきている。その状況で周りには同士の破片、そして追い詰められた精神。冷静になるのは無理だったが、それでも思考は自決をするほど侵されてはいなかった。
僕は手榴弾を投げ捨てて九九式小銃を手にすると、洞窟に差し込む光に向かって走りだした。
考えるより先に脚が動く。
外では米軍がすぐそこにまで攻めて来ていた。僕はそれを見るなり直ぐに岩に身を潜める。
涙が一向に止まらず、銃を持つ手の震えも止まる様子がない。
遥か遠くに、仲間の機関銃の銃声が聞こえた。僕にとって唯一の安らぎだ。今となっては訓練で嫌と聞かされた仲間の銃声だけが、ある程度の安心に近いものを与えてくれる。
しかしその音も、米軍の戦車の主砲が火を噴いたあとの爆発音と共に聞こえなくなった。
この絶望感は、僕をさらに追い詰める。
震える手に力を入れ、ボルトを引いて初弾を薬室に送る。
足が動くまで数秒かかり、やっとの思いで岩から銃を出して近くの米軍兵士に照準した。
米軍兵士達は僕に気づくと、半自動小銃や短機関銃を向けてくる。僕はそれにビビってしまい、引き金は絞るが、敵を外して自分はすぐに身を潜めた。
盾となる岩に敵の発砲した弾が当たる。
怯んだ僕はまた洞窟に駆け込むと、後ろから米軍も追ってくる。と思ったが、足音も銃声もしない。
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