0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
第3話「あんこらぶ。」
子供の頃は駄菓子屋で売っていた「甘納豆」が好きだった。
甘納豆というと誤解されがちだが発酵食品の納豆とは全くの別物でまめ類や栗などを砂糖漬けにした和菓子である。
私がよく食べていたものは小豆の甘納豆で、それは母が作る餡子がつぶ餡だった影響を受けていた。
私は大人になるまで世の中にこし餡派とつぶ餡派がいることすらも知らないで育ってきた。
私の彼女はこし餡派だ。
私は粒の形が残ってるあんぱんを食べるとテンションが上がるからきっとつぶ餡派なのだろう。だけれど余り意識した事はない。
結局は餡子そのものが好きなのに違いはないのだから…。
先日、映画を観た帰りに甘味処に寄ってみた。
店内はほぼほぼ女子でいっぱい。彼女連れでさえ肩身が狭い。
『お団子食べよう?』
彼女はそう言いながら、きな粉を注文した。私は胡麻団子にした。
『へーえ。胡麻なんだ。』
彼女は私が胡麻味を注文したのが意外だったようだ。
しばらくすると注文したお団子が出てきた。
子供の頃はきな粉に砂糖を混ぜて食べていたという彼女。
彼女には内緒にしているが自分も同じ事をしていたので笑えない。
『1本変えてみる?』
私がそう言うと待っていたように
『うん』
と笑顔で頷く彼女が天使に思える。
『胡麻も美味しいね』
抹茶が胡麻の風味をより引き立て一層美味しく感じる。
『きな粉に餡子を乗せたいよね』
『トッピングしたことあるよ』
『どうだった?』
『すっごく美味しかったよ』
そんなたわいもない会話が楽しい。
『帰ったら餡子作ってみようか?』
『えー作れるの?』
彼女は半信半疑だ。
『多分ね。母が作るの見てたから』
困ったらネットで検索するに限る。
帰る途中で近くのスーパーに寄って大納言と三温糖と買った。
『こし餡にしてね』
彼女は生粋のこし餡派なのだ。
『せっかくだからパン生地も作ってあんぱん作ろ』
餡子を作るには時間がかかる。
パン生地を作って発酵させるだけの時間があった。
『あんぱん食べるのって久し振り』
彼女はそう言って笑った。
つぶ餡が出来上がり、ミキサーにかけてこし餡にする。
それをパン生地でくるんで焼けばあんぱんの完成だ。
最初のコメントを投稿しよう!