人が人を選ぶ時代に生きる苦痛

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更にあまりにも不甲斐なさのせいで家族から見捨てられ、現在住んでいるボロアパートの家賃をはじめ食費や通信料などを短期バイトで稼ぎながらなんとか生活している。 厳しい家庭の長男に生まれ、厳格な両親に言われ続けて大学までは希望通りに入学したのに職に就けないせいでこの有様だ。 弟や妹が公務員や優良企業に新卒で内定を獲得したのが決め手で俺は孤立無援の自給自足の生活を強いられることになる。 「早く就職しねぇとマジで死んじまうかもな‥。「ピピピッ!ピピピッ!」」 ボロボロの木の床に仰向けになり天井の染みを見つめて呟くと狭い部屋に置いてある数少ない物の一つであるデジタル置き時計のアラームが響く。 「そろそろ短期バイトだから出なきゃいけないな。」 午前10時30分を表示しながら鳴り続ける置き時計に体を向けて上面にあるボタンを手で押して呟く。 現在生活を支えているまさしく生命線とも言える短期バイトは何よりも優先すべきことであり、俺は遅刻しないように早くアパートを出るようにしている。 バイト内容は交通整理で旗を揚げたりするアレだ。 この時期は帰省やらで高速道路を利用する車両が多く、道路の混雑や渋滞やらで短期バイトの募集があり俺は生活をやりくりするために積極的に受けていた。 壁のハンガーに掛けられた防寒着を着て、貴重品を年季の入ったリュックサックの中に入れてアパートを出る。 防寒着のフードを深めに被り、顔を隠して準備は完了。 顔を隠すのは就職した同級生にバッタリ会うと惨めな気分になるからだ。 スマホで連絡やメールが来るが忙しいからという文面で丁重にお断りしている。同級会なんて以ての外だ。 外に出ると天気は快晴の真昼間にも関わらず暗い。 別に不思議なことではなくいつものことだから気にしないが敢えて説明すると常に暗いのはこのボロアパート通称「成果荘(せいかそう)」またの名を「成れの果て荘」の立地している場所が原因である。 成果荘は元々郊外の過疎地域にポツリと佇んでいる建物であった。 しかし数年前にこの土地に住宅街を建築する計画が実行され、廃墟同然の成果荘に構わず周囲にいくつかの高層マンションが建設された。 その結果周囲のマンションの影に位置する成果荘にかつて射していた日光は遮られ、常に真っ暗なのが普通になのだ。 正直日照権で裁判を起こしたら確実に勝訴できるレベルである。
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