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 はあ、と肺の中を空にする勢いで燈子さんが溜息を吐いた。 「千秋ちゃん、本当さばさばしてるよね。」 「よく言われますけど。そういうの、本当に興味ないので。」  んん、と少し口を尖らせてから、燈子さんはまたビールを口に含んだ。短髪で磊落な彼女はよく男勝りだと言われているのを耳にする。高校の部活も大学のサークルも一緒だから、本人がそれをよく思ってないことも、案外普通の女の子だということも、散々言われるさばさばという言葉がいい意味じゃないことも、よくよく知っている。私から見れば彼女の方がよっぽどさばさばしてると思うのだけど。怒られるだろうから絶対言わないけど。 「千秋ちゃん、本当さばさばしてるよね。」 「だから、解ってますって。」  真っ赤な顔がこちらを向く。いつものような笑顔が、ない。 「人に対して、冷たすぎ。無理にべた付けとは言わないけどさ、ほどほどにくらい付き合いなさいよ。私と違って頭いいんだし、少しくらいうまくやんなさいよ。」  まったくもう、というとすっと席を立っていった。結構ふらついているけれど、多分大丈夫だろう。滅多に飲まない燈子さんが酔っているのを見たのを久しぶりだ。  自分でも解っている。多少割り切って関わりを持つのが大事なことは。ただとにかく、面倒なのだ。自分だけがよければいいとは思わないし、人が嫌いなわけでもない。距離感の測り方だとか接し方だとか、よく解らないけど鬱陶しいのだ。  ポケットで携帯が震えた。多分駿介からの電話かメールかだろう。こういうまめなところが仕事で生きているんだろうな、と尊敬する。けど、やっぱり、重い。  コートに手を突っ込んで無造作に切った。  ふっと心が緩む感じがして、燈子さんの飲みかけのビールを一口、口に含んでみた。 (Fin.)
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