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聞きちがいじゃなかったみたいだ。
げんかんのドアがひらく音がする。
それから床をぎしぎしぎしぎし鳴らせてだれかが歩いて来る音。
「ぐわあぁぁ」
クマのほえ声みたいなひめいが聞こえてきた。
たぶんおふろ場の前あたりだ。
それからドタドタとろうかを走る音が聞こえてから、台所ドアのすりガラスの向こうに大きな人のかげが見えた。
おとうさんはぼくの口におかあさんのきれはしをおし込む手を止めて、ガラスドアをにらみつけるみたいに見ている。
かちゃりとドアをあけてその人は台所に入ってきた。
大きなからだ。
もじゃもじゃのヒゲ。
クマのようなおじさんだ。
おじさんはじろりとおとうさんをにらみつけてから、ぼくの方を見て、それからお父さんが手に持ってるものを見る。
「おやじ、何やってるんだっ? その冷蔵庫に入れようとしてるモノは何なんだよ??」
おじさんがかおをまっ赤にして、ものすごくものすごく大きな声でどなって、おとうさんはその場にへたりこんでしまった。
「……ゆうや、帰ってきたのか」
ぼそりとそう言うと、おとうさんはすわったまま床を見てじっとしていたんだけど、少ししてから一度かおを上げておじさんをを見て、それから手にもったおかあさんのカケラを見てから、せなかをふるわせてしずかに泣きはじめた。
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