七草誉は偏食家

3/4
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
 中学の制服を脱いで一足早くパジャマ姿になる。我が家は農家なのでサラリーマン家庭に比べると夕飯の時間は早い。かまどに火を入れる、ならぬ、ガスを使うのも日が高いうちから。  わたしは母親が夕飯の支度をはじめる半刻前に、きまって台所に立つ。  手紙にある通り、わたしは偏食がすぎて別口で食事を用意する。母親はそれに何かしら文句をつけてくる。台所は女の城。農家に嫁いできた祖母と母親。家族は偏食悪食の娘に頭を悩ませている。  中学二年生育ち盛り。難癖つけられるけど身長体重は平均値。骨密度を案じられたり、必須栄養素が云々高説聞かされても、その点は「偏食克服料理帖」に編纂中である。  そう偏食克服料理帖は存在している。  わたしが偏食家になってから学習帳に書きはじめたものだ。この話を知っているのは祖父母両親兄姉の家族だけ。もしかしたら母親が井戸端会議で愚痴っているやもしれないけど。皆の知るところではない。はず。  割烹着に腕を通して居間に降りる。すでに祖父母がテレビを鑑賞中。  わたしは台所に立って棚から鍋を取りだした。  南部鉄器の小鍋で味噌汁作り。  まず腥(なまぐさ)を避けるので出汁は昆布や椎茸を使う。  くず野菜(それでも新鮮)を湯通し。  味足しに胡麻油。味噌は大豆からできているので問題なし。  おかずは漬物、酢の物、焼物と煮物類。  単品で発酵食品も食べる。あと野菜。  今日のメニューは――  くず野菜汁、わさび漬けの茄子、黒酢のもずく、ズッキーニ焼き、ほうれん草のサラダ。  タンパク源に高野豆腐の煮びたし。主食に白米のごはん。  基本は一汁三菜。我が家は大皿。その中で末娘だけプレート料理。  年頃の姉も一時期真似していたが腹が膨れないので脱落してしまった。  むしょうに赤身肉が食べたくなるらしい。仕方ないと思う。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!